労働基準法の本格的な改正によって、政府による働き方改革が2019年4月から始まります。
企業が注目しているのは、今まで努力義務規定だった有給休暇や残業規制が、科料を含む実刑も視野に入れた罰則があるということです。
違反企業は刑罰が科された場合、公表されることもあります。
しかし、従業員への残業減少や有給休暇強制取得は、仕事に追われた社員達はなかなか守ってくれません。
その結果、さまざまな働き方の改革が大手企業を中心に広まりつつあります。
ですが、良い影響だけではありません。
企業の政策を紹介しつつ、働き方改革によって社員に起こるさまざまな影響について考察していきます。
目次
【大企業の働き方改革】オリックスの有給休暇報奨金制度「5連休5万円」
2019年4月から、有給休暇の消化5日以上が企業に義務化されます。
今まで、有給休暇の消化については努力規定だったのですが、今年の4月からは完全義務規定で、違反した企業には30万円以下の罰金が課せられてしまいます。
これに先立ち、オリックスが2017年4月から導入した「リフレッシュ休暇取得奨励金制度」、すなわち社員全員が年1回利用できる5連休5万円支給制度が設けられ、日経新聞にも紹介されました。
同社が17年4月に始めた「リフレッシュ休暇取得奨励金制度」は、5営業日以上連続して有休を取った社員に5万円を支給する。基本的に全社員が対象で、1人が年1回使える。初年度は約3,500人が利用した。
引用:「「5連休取れば5万円」 これが今年の働き方」(日本経済新聞 電子版、2019年1月7日)
ちなみに、この制度を開始した年度に3,500人が利用して、全員が5万円を取得したということは、1億7,500万円もの報奨金を会社は支払ったわけですが、これは社員の残業減少から浮いたお金で賄えているのだそうです。
有給休暇5日ということは、5日間残業ゼロの日ができるということです。
社員の5日分の残業をゼロにしただけで、これだけの金額が捻出できる一例とも言えますね。
有給休暇強制取得ではなく、残業減少推進運動の奨励をしている企業もたくさんありますので、紹介しましょう。
【大企業の働き方改革】残業ゼロ制度のいろいろ
(1)紳士服のはるやま
紳士服大手のはるやまホールディングスは2017年4月から「ノー残業手当」を導入しました。
残業してもしなくても、15000円手当が貰えて、15000円を超える残業代は支払われるシステムです。
この制度のお陰で、全社の残業手当は16%減少したそうです。
(2)日本電産
2020年を目標に残業ゼロを目標に会社を挙げて労働時間減少を指針しています。
(3)大阪ガス
夜間休日のメールの原則送信禁止令で、緊急時以外は、22時~7時までのメールの送信を禁止しています。
メールの送受信だけでも、結構な時間を要してしまうので、残業防止に繋がるというわけですね。
政府の働き方改革は中小企業の首を絞める?
政府の働き方改革は、有給休暇の消化や過剰労働時間の削減に積極的です。
徹底した対策のためか、改正後の労働基準法上でも、条文が今までの努力規定から義務に変化し、違反した企業には罰則も設けられるようになります。
労働時間が減った分、社員がリフレッシュにいそしむだけなら良いのですが、「労働時間が減る=収入が減る」、すなわち嫌でも副業に迫られる企業もあるのです。
オリックスのように、有休を取得した分、報奨金を貰えるような制度でもない限り、政府の働き方改革は、労働者の首を絞めることになります。
ご主人が残業ゼロになったせいで、寝る時間を削ってパートをしなければならなくなる家庭もあるかもしれません。
あまり知られていませんが、就業規則作成や執行規則の改定時には、労働者の意見を聞く義務があって、その意見を参考にしなければなりません。
ですが、労働者の意見を全く無視しても違法にはならないため、つまるところ経営者側が勝手に決めて良いものなのです。
ただし、明らかに労働条件が悪化するような項目や、労働基準法に反する項目は労働基準監督署がOKを出しません。
とにかく、企業は義務化されて罰則のある労働時間や有給休暇の規定を厳守するために、さまざまな方策を設けなければならなくなります。
その結果、就業規則が思わぬ方向に改訂され、それが労働者の首を絞める可能性もあるのです。
労働組合の強い会社であれば、悪い就業規則は労働組合の反発によって自浄作用があるでしょう。
しかし、中小企業の場合は労働組合なんて有って無きが如し、という会社も少なくないので、どんな就業規則の改定でも、従わなければなりません。
オリックスや、紳士服はるやまの制度のように、労働時間削減に繋がる上に報奨金が出るような、社員に嬉しい就業規則改定なら願ったり叶ったりですが、中小企業には難しい話で、社員の首を絞める就業規則になるリスクの方が可能性大です。
ただし、政府も鬼ではないので、中小企業の場合は、まだ1年間の猶予期間があります。
それでも、中小企業の場合は、社員数も資金力も大企業には比べものになりませんし、労働組合の力もそんなに強くありません。
「無理に残業代を削減して、仕事が終わらない場合は残った仕事は誰がするの?」となったら、社員を増やすか、どこかから副業者を連れてきて働いてもらうしかありません。
不景気で従業員を増やせないから、残業が増えてしまうわけですよね。
そのため、中小企業が働き方改革に合わせて就業規則を改訂する場合、「中小企業は社員の副業解禁ができるのか」「中小企業の労働者は、残業ゼロで生活できるのか」の2点をクリアできるかどうかが焦点となります。
さらに、副業できても、短時間で今までの残業代の代わりになるほどの収入を得られるのかという点も問題です。
経営者だって、どこかの新たな副業者に外注するより、自分の会社の社員にやってもらった方が、さまざまなことで効率が良いに決まっています。
もしかしたら、社員の中には、自分たちの仕事を低い単価で外注されるくらいなら、自分たちがやった方が良いと思う人もいるかもしれません。
会社も、社員を副業者として別途雇った方がお得かもしれません。
ですが、自分の会社の社員を使って、定時で社員としての就業を終わらせ、副業者として雇い直したとしても、長時間労働で労働基準法違反となります。
もはや、経営者にとっても労働者にとっても蟻地獄のような法案のようにも思います。
中小企業には、残業をゼロにしたり副業を解禁したら、政府が補助金を出すような制度が必要かもしれません。
中小企業であっても、残業ゼロ報奨金制度や有給消化報奨金を出せるような、法を守るための補助金制度を用意してくれないと、法に縛られて結果的に倒産する企業が出てくる可能性があります。
まとめ
パラレルキャリア型副業が簡単にできる社会環境が配備されたら、もはや労働者は、好きな時間に会社に労働力を提供する、そんな時代がくるかもしれません。
世の中は、大企業よりも、中小企業で働く人の方が圧倒的に多いのです。
大手企業がどんどん残業の報奨金制度や副業、テレワーク導入で、働きやすい環境を労働者に提供していく一方で、中小企業の社員達は、今の環境からなかなか抜け出せずにいる不公平な時代になるかもしれません。
ですが、嘆いてばかりいるわけにはいきません。
「やろうと思えば何でもできる」その意気込みさえあれば、チャンスは無数にあるのです。
働き方改革は、人によっては人生の転換期!
働き方改革ドリームとなるかもしれません。
この記事を書いたのは
- 元社労士のフリーランスライター。資格も多数保有。今は主婦として家族を大切にし、活動時間短めで気ままに執筆中。
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