雇用契約でのアルバイト、パート、人材派遣は、単なるワーカー業務です。
副収入目的ならこれで良いのですが、ビジネスに近い請負契約へはなかなか発展しないものです。
請負契約の副業であれば、納品により仕事が完成されることになり、仕事の分野にもよりますが、仕事をする時間・場所が事業者に任される場合が多くあります。
そのため、副業としての自由度が増し、事業性が生まれます。
アルバイトからさらに請負の元請け事業者になれば、同じ作業でも収入が増えることは確実です。
今回は、副収入目的の副業の雇用契約であるアルバイト業務から、副業を超え個人の請負元へ発展した例をご紹介します。
目次
中小広告代理店勤務のK氏。会社業績も低迷、副収入目的でアルバイト。
私は副収入目的で清掃の仕事を行っていました。
土日のみのアルバイトです。
そこでKという人に出会いました。
K氏の勤務していた会社は求人関係の中小広告代理店で、取り扱う求人媒体の力は弱く、他の大手企業の媒体が強いため業績は思わしくありませんでした。
給料も上がらず、何よりも賞与がほとんど出ないことで生活が苦しいと言っていました。
そのためK氏は、土日に副収入目的で清掃のアルバイトをしていたのです。
清掃会社の業務は一般の会社が休日の時間を利用するため、土日でのオフィス清掃でした。
床清掃が中心で、椅子を机の上にあげ床をモップがけするなどの業務です。
K氏にとって単なるアルバイトとして始めた清掃業務でしたが、清掃の仕事をやってみると、自分の会社の業務は虚業要素があるけれども、清掃業は実業と思えたのです。
広告はやってみないと効果がわからない世界です。
まったく効果がない時も頻繁にあります。
しかし、それではお客さんは広告を出してくれません。
特に弱い媒体ではなおさらです。
それをカバーするために、ややオーバーな効果を示す媒体資料を提示したり、口で効果をアピールしたりせざるをえません。
また大手に対抗するため、どうしても広告料の安さでアピールするしかありませんでした。
それに対して清掃の仕事の目的は、汚れたオフィスをきれいにすること。
それ以外の目的はありません。
作業結果以上にオーバーにアピールすることも意味がありません。
下請けのアルバイトですから顧客に自分が営業したり、説明したりする必要もありません。
ただ誠実に仕事をすれば良いことに、K氏は喜びすら感じていたようです。
誠実な性格のK氏には、清掃の仕事は向いていたのでした。
清掃会社の報酬は日当性。仕事が早く終われば早く帰れるシステム。結果手抜きの体質が身についてしまっていた。
清掃の仕事では毎回現場が変わり、人数は1つの現場で2〜3名から数名が多く、大きな現場だと10名程度で出向き、チーム制で仕事をしていました。
契約社員かベテランアルバイトが、班長として1つの現場につき1名つくかたちです。
班長は、現場作業指示と管理を任されていました。
また、業務内容は請負契約のため、作業に関する時間管理は現場に任されていました。
班長個人の判断というよりも、会社全体に仕事管理の面で甘さがあったのでしょうか。
仕事の質を重視するよりも、班長自身も含めた現場作業者が仕事を短時間で終わらせるようになり、「これで良いんだ」という意識になっていました。
作業は朝から夕方までの仕事を昼食休憩抜きでやり、午後2時から2時半で終わることもあるというものになっていました。
班長が朝作業前にアルバイトの作業者に聞きました。
「昼食・休憩をとってやるのか、昼食・休憩抜きで早く終わりたいのか」
すると、ほぼ全員が昼食・休憩抜きで早く終わることを希望したのです。
もちろん、約束された日当は固定でそのまま払われます。
結果的に、作業者は清掃作業を早く終わることに集中します。
ともすれば、目に見えないところで手を抜くことが生まれてきて、それが普通になっていたのです。
たとえば部屋の隅や裏側、モップの水洗いの回数の手間省きなどです。
しかし、K氏はこのことに疑問を抱いていました。
そして自分は納得のいく清掃をしようと心がけていました。
これは私を含む他の作業者の意識とは、決定的に違っていました。
K氏はあるビルオーナーから個人的に声を掛けられ、「あなた個人が仕事を請けてくれ」との提案が!
ある時、K氏は仕事先のビルオーナーから個人的に声を掛けられました。
「あなたの会社の仕事は手抜きが多くダメだが、あなたの仕事ぶりはまじめで評価できる。あなた個人が仕事を請けてくれるならこの会社との契約を破棄する。」
との提案でした。
さらに、
「あなたが本気で独立するなら、他のビルも持っているので清掃の仕事を出す。」
との話でした。
K氏の現場での仕事ぶりを、オーナーは見ていたのです。
K氏は悩みました。
奥さんに相談したところ、清掃というブルーカラーの仕事にあまり良い印象はないようで抵抗はありました。
しかし、「独立し収入が増えるなら良い」と納得してくれたようです。
K氏自身は、自分がやっている広告業に疑問を感じていました。
広告の虚業性が、どうしても好きにはなれないと感じていたからです。
さらに、自分自身の勤める中小広告会社の将来性に、疑問と不安を感じていました。
その後、ビルオーナーと何度か話し条件などを聞き考えた末に、K氏は清掃の元請けになり本業とすることを決断しました。
元請けとして仕事をすれば、生活していけるだけの収入は確保できると判断したからです。
K氏は、まず自分の手で汗水たらしながら作業し、人手が足りない時は友人に頼む程度から始めることにしました。
K氏は何よりも、クライアントから直接に仕事が評価されたことが嬉しかったのです。
また、仕事へのやりがいを感じていたのです。
今までの広告の仕事では、クライアントから本当に感謝されたことはありませんでした。
効果があって当たり前、無い時の方が多いのですから、自分がごまかすような体質になっていくことが嫌でした。
K氏は清掃という仕事は自分に合っていると確信を持ちました。
自分に合った仕事と出会うことは幸せなことです。
どんな仕事でも誠意を持って仕事をしていけば、人から評価されます。
人は評価されれば、やりがいを持つことができます。
清掃の仕事は誠実さの要求される地味な仕事です。
社会的評価も高いとは言えません。
人の嫌がる3Kの仕事と言ってよいでしょう。
誰でもできる軽作業という位置づけで求人されています。
賃金も低いでしょう。
しかし、1作業者から元請けになり事業主になれば報酬も変わってきます。
コスト競争で楽とは言えませんが、事業主になればある程度の収入になります。
受注する現場が増えれば管理業務主体の仕事になり、規模も大きくなっていきます。
事業拡大の夢も持つことができます。
発注したビルオーナーとの人間関係を大切にし、信頼を深めれば、ビル管理業務などに発展する可能性もあります。
また、施設管理や警備関係の業務へ発展する可能性もあります。
付加価値は低くても、市場規模は大きい分野です。
清掃の仕事はどこにでもあります。
営業方法も顧客対象が明確でシンプルです。
仕事の丁寧さと価格が勝負です。
そして何よりも自分にあった仕事であれば幸せです。
副業のアルバイトでもパートでも誠実な仕事をしていれば、人に評価され道が開かれる可能性があるのです。
K氏の言葉である「たかが清掃、されど清掃」は、仕事をとおしての1つの生き方をも示してくれています。
この記事を書いたのは
- キャリアコンサルタント、起業コンサルタント。著書に、「現代手に職ガイド」実業之日本社、 「パソコン便利屋の始め方・儲け方」ぱる出版、「サードジョブ」講談社など。