精神障害者には「フリーランス」と「障害者雇用」のどっちがいいのか、実際に働いてみた私が解説します


精神障害者には「フリーランス」と「障害者雇用」のどっちがいいのか、実際に働いてみた私が解説します

突然ですが、私は精神障害者です。

 

精神障害といってもさまざまですが、私は統合失調症という障害を抱えています。15年ほど前に幻視や妄想が酷くなり、精神科病院で3か月間の入院生活を送りました。

 

入院生活で自分に合った薬が見つかり、退院後は服薬とリハビリを続けた結果、現在では寛解(完治の1歩手前の状態)しました。

 

障害というのは固定的な症状であることが前提なので、完治とは言わずに寛解という言葉を使うことが一般的です。

 

 

 

2010年7月に障害者のための訓練施設で就職に向けて訓練を始め、2013年7月からその施設の職員として働き始めました。

 

厳密には就労継続支援A型という雇用形態ですが、わかりやすく言うと障害者雇用です。

 

 

 

2018年3月、私は勤務していたその会社を退職し、4月に個人事業主として開業しました。

 

そして2019年4月にフリーランス2年生になりました。

 

この1年間のフリーランス生活は紆余曲折あり、嬉しかったこと、悲しかったこと、大変だったことなど、さまざまな出来事がありました。

 

 

 

私はいわゆる「成功したフリーランス」ではないと思っています。

 

なんとか生活できる程度の収入しかないですし、「精神障害者のくせに、何をのんきに在宅ワークなんかで働いているのだ」という家族や親戚からの冷たい視線を感じることも多々あります。

 

 

 

精神障害者にとって、「フリーランスとして働くこと」は本当に良い選択肢なのでしょうか? 

 

障害者雇用として5年間勤務し、現在フリーランスとして活動している私が思う、障害者雇用とフリーランスのメリットとデメリットを紹介します。

 

 

障害者雇用とフリーランスのどちらがいいの?

 

私の実体験をもとに、障害者雇用とフリーランスのそれぞれのメリットとデメリットについて紹介します。

 

 

 

 

障害者雇用のメリット

 

障害者が障害者雇用で働くメリットは、障害に対して配慮を受けながら仕事ができることです。

 

しかし、障害に対する配慮といっても、その中身は働いている障害者によってさまざまです。

 

 

 

例えば、私のような精神障害者に対する配慮として、勤怠に関する柔軟な対応があげられます。

 

私は定期的な通院が必要だったので、通院日には有給や半休を使う必要がありました。

 

一般的な会社では白い目で見られることが多い有給申請ですが、障害者雇用なら必要な通院に対して有給や半休は当然のものとして申請できます。

 

 

 

また精神障害者は仕事に慣れるのに時間がかかります。

 

私の場合は入社後の最初の半年は週30時間勤務でした。まずは仕事や職場の環境に慣れることを目標にして、少しずつ業務時間を増やしていきました。

 

最終的に、私は週40時間のフルタイムで勤務できるようになりました。

 

このように勤怠に関する配慮の有無も、精神障害者にとって重要です。

 

 

 

ポイントは障害者が必要としている配慮を適切に受けられるかどうかです。

 

障害者は「とにかく働きやすいように配慮してくれ」と訴えるのではなく、自分の障害に対する理解を深め、どのような配慮があれば働きやすいか、勤務先の会社に適切かつ具体的に伝える必要があります。

 

これは障害者雇用のメリットを最大限に活かすためには必要不可欠です。

 

 

 

 

障害者雇用のデメリット

 

障害者雇用として実際に働いて感じたデメリットは、障害者という立場では仕事上の意見がなかなか通らないということです。

 

私はホームページ制作の仕事をしていたので、その時の例を取り上げて紹介します。

 

 

 

ホームページ制作の業界は、毎日のように新しい技術やツールが生まれています。

 

ホームページ制作の中でもHTMLやPHPを書く工程はコーディングと呼ばれ、新しいプログラミングの手法や開発ツールの恩恵を受けて仕事をすることが当たり前の世界です。

 

クリエイターにとって、このようにトレンドを取り入れながら仕事をすることは、モチベーションが維持できる1つの要因でもあります。

 

 

 

ただ私がいた会社は、あくまでも「障害者が働く場」としてのホームページ制作事業だったので、かなり保守的な環境でした。

 

障害者の意見を取り入れて、もしうまくいかなかったら、障害者のせいになってしまう。だから積極的に障害者の意見を取り入れることができない、という環境でした。

 

 

 

私はホームページ制作の補助ツールとして、「git」と呼ばれるバージョン管理システムの導入を提案したことがあります。

 

これはインターネット上のサーバーにプログラムのファイルを保存して管理するためのものです。

 

さまざまなプロダクトで導入された実績があり、業界ではちょっとしたブームでした。

 

 

 

しかし、私が提案した時は全く話が進みませんでした。

 

「インターネット上のファイルを保存するのは危ない」というのが主な理由でした。しっかり管理すれば大丈夫と伝えたのですが、もうなんだか耳を貸さないといったような状態でした。

 

 

 

しかし、私の提案から3年ほど経過した頃、取引先の企業がgitでプログラムを管理していたことで、社内でgitの導入があっという間に進みました。

 

その頃には私が提案したことなんて、みんな忘れていたようです。

 

 

 

これは一例に過ぎませんが、少なくとも私がいた会社では、あまり障害者の意見が通るような環境ではありませんでした。

 

指示されたことを淡々とこなすだけの環境では満足できない人にとって、障害者雇用は窮屈かもしれません。

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フリーランスのメリット

 

障害者雇用で働いていた会社を退職し、フリーランスになりました。まずはフリーランスのメリットから紹介しましょう。

 

 

 

開業して1年が経過して、私が実感したフリーランスのメリットは、良いと思ったことをすぐに実践でき、悪いと思ったことをすぐに修正できる点です。

 

障害者雇用で働いている障害者は、基本的に会社内では末端のプレイヤーなので、何か行動を起こそうと思ったら、まずは上司に相談や報告が必要でした。

 

 

 

例えば、ホームページに誤字脱字があり、そんな些末なことを修正するにしても許可が必要なのです。

 

「こんなの、さっさと直せたらいいのになぁ」と思いながら、相談して修正していたのですが、このような環境だと、だんだん相談したり報告したりするのが面倒になってきます。

 

そうすると、どうなるのか。

 

ダメなところが放置されてしまうのです。

 

 

 

しかし、フリーランスは基本的に自分1人で事業を行っているので、仕事のやり方や内容は、完全に自分の思い通りにできます。

 

良いと思ったことは、ナルハヤでやればいいし、悪いと思ったことは、修正するなり止めるなりすればよいのです。

 

 

 

朝令暮改という言葉があるように、私は朝にやろうと決めたことを、夕方に撤回していることも多々あります。

 

「もう少し考えて行動すれば?」と言われてしまうとそれまでなのですが、とにかくやろうと思ったことが合ったら、すぐに手をつけて、結果を確認したいタイプなのです。

 

このようにある程度のスピード感を持って仕事をしたい人はフリーランスに向いているかもしれません。

 

 

 

 

フリーランスのデメリット

 

多くのフリーランスは、基本的に自分のスキルや知識を武器にして働いています。

 

この世界では「障害者だから」という理由で、仕事に対して何らかの配慮が受けられることはありません。

 

 

 

例えば、私はWebライターとしてさまざまなメディアで記事を執筆していますが、自分が障害者であることを打ち明けて仕事をしているのは、この『Cool Workers』というメディアだけです。

 

なぜならフリーランスの場合、クライアントに自分の障害を打ち明けてもあまり意味がないからです。

 

むしろ精神障害者に仕事を依頼するのは怖い、と仕事を断られてしまうかもしれません。

 

 

 

障害を持ちながらフリーランスとして働き続けるためには、自分の障害について自分自身で配慮できることが必要です。

 

そのためには自分の障害特性と、継続して働ける方法をしっかりと把握することが重要です。

 

 

 

フリーランスは、障害者雇用のように他人から配慮やサポートを受けながら仕事を進めることができません。

 

困ったことが起きても、誰にも相談できません。

 

障害者にとって、このような環境で成果を出し続けることが求められることは、やりがいがあるかもしれませんが、人によっては大きなデメリットになると思います。

 

 

 

 

自分に合った働き方を探そう

 

私は障害者雇用とフリーランスの両方の働き方を経験して、今回紹介したようなメリットとデメリットを感じました。

 

結局どちらも一長一短であり、どちらの働き方が自分に合っているのかは、人によって異なります。

 

 

 

障害者が働く環境は、ここ数年で急速に改善されています。

 

例えば、民間企業における障害者の法定雇用率は平成30年4月から2.2%に引き上げられ、令和3年4月までにはさらに0.1%引き上げられることが決まっています。[1]

 

これは、精神障害者が雇用義務の対象として基準に加えられたためです。

 

先日、ハローワークで障害者雇用の専門相談員の話を聞いてきたのですが、この1〜2年で精神障害者の雇用は急速に増えたと言っていました。

 

 

 

一方、フリーランスの世界ではどうでしょうか。

 

ランサーズやクラウドワークスのようなクラウドソーシングを使えば、誰でもインターネット上で仕事を受注することが簡単にできるようになりました。

 

私もランサーズがなかったら、フリーランスになろうとは思っていなかったでしょう。

 

 

 

どちらの働き方でも、障害者にとって難しいのが、「始める」ということだと思います。

 

「障害者雇用を目指してハローワークに相談する」

「フリーランスとして最初の案件に提案する」

 

他にもいろいろあるはずです。

 

 

 

もしこの記事を読んできる障害者の方がいらっしゃったら、まずは自分にできそうなことからスタートしてみてはいかがでしょうか。

 

やってみて、うまくいったらそれを継続すればいいし、ダメだったら、別の方法を試す。働くことを必要以上に怖がらず、チャレンジしてみる。

 

最初はそれでよいと思います。

 

 

 

<参考・参照サイト>

[1]平成30年4月1日から障害者の法定雇用率が引き上げになります」(厚生労働省)

 

 


この記事を書いたのは

村上 英輝
村上 英輝ライター
フリーライター&Webクリエイター。奈良県在住。2018年4月より個人事業「コレカラウェブ」を開業。20年間のWebクリエイター経験を活かし、WordPressやSEOに強いライターとして活動中。難しいことを分かりやすく伝えるをモットーに執筆しています。趣味は読書・散歩・マラソン・写真。