副業解禁を推進する政府と企業の本音。〜働き方改革のメリットデメリット〜
政府の働き方改革で副業解禁へと企業の考え方が進みつつあります。政府の働き方改革は、「一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ」達成のための方策の一つです。
高齢化社会・少子化対策と企業の生産性アップを両立させるために、政府自らが手本になってテレワークを導入したものの、導入にはある程度の大きな資金が必要なので大企業しか手が出せないのが現状です。企業の労働力低下を補うために、まずは副業を可能にすることが急務だと政府は考えています。
そこで、この記事では、副業解禁へと推し進める政府の方針と、それを受ける企業の本音に迫っていきたいと思います。
目次
「一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ」のための副業解禁
「一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ」とは?
内閣府の調査によると、日本の人口は2048年には1億人を割り、2110年には5000万人を下回る計算になります。(※1)
そこで政府は、高齢化社会に歯止めをかけるために「一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ」という政策を掲げました。
<参考・参照サイト>
(※1) 選択する未来 ‐人口推計から見えてくる未来像‐ (内閣府HP)
副業解禁を推奨するに至った理由とは?
人口増加のためには、少子化対策として、女性の妊娠・出産を推進しなければなりません。しかし、政府の政策とは裏腹に、世の中は晩婚化・少子化にどんどん拍車がかかっています。
そこには、さまざまな理由があるのですが、家計の維持のために結婚していても専業主婦ではいられない環境にいる主婦もいれば、シングルマザーであるがために働かざるをえないママが非常に多いのが現状です。
彼女たちは、育児と仕事を両立するのが非常に難しい環境に置かれているのです。好きな仕事を選ぶのではなく、労働条件と照らし合わせて仕事を探している女性が多いともいえます。
そこで政府は、「一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ」に向けて、まずは育休・介護休暇中でも働きやすい社会を作ることにしました。
しかし、世の中の景気はまだまだ低迷状態で、夫婦共働きで家計を支えなければならない家庭も多いのが現状です。乳幼児の子育てと仕事の両立はまだまだ難しいのです。
特にシングルマザーの場合は、出産したら出産手当や育児休暇給付金を取得できたとしても、雇用保険から支給される出産手当や育児休暇の給付金だけでは、それまでの生活を維持することは難しいです。
産休や育児休暇中の副業は、給料激減分を補う大きな収入源になるといえます。
一方、不景気は企業のパワー低下に拍車をかけ、日本雇用の特徴ともいえる「終身雇用」を維持できない企業の増加が目立ち始めました。
しかし、有能な人材の雇用は維持したい、というのが企業の本音です。
とはいっても、昭和の時代のように、従業員の家庭の経済事情まで保証できる企業はもはやゼロといっても過言ではなく、それどころか有能な人材の賃金さえもカットしなければならない企業が多いのが現状です。何もしなければ、有能な人材はパワーの大きな大手企業へ転職したり、引き抜かれたりしてしまいます。
そんな中、内閣が旗を振って推し進める副業解禁制度の誕生です。
そもそも、多くの企業がモデルとした、政府の「モデル就業規則」は、終身雇用が当たり前の戦後の昭和の時代に作られたものです。
当時は、終身雇用が前提で、病気になっても生活の保証をし、借金が必要になったときは会社がお金を貸してくれ、社内貯蓄の利子がなんと上限規制5%だった時代です。
今では会社の住宅ローン制度や社内ローン、社内預金制度は廃止され、労災は3年で打ち切られ、もはや企業は従業員の生活を守ってはくれないのです。
現在の景気とはかけ離れた時代に作られた就業規則に縛られているなんてナンセンスです。
それに、終身雇用や生活の保証もできない企業が、転職は困る、給料保証はない、しかも副業は懲戒処分なんて、もはや身勝手としかいいようがありません。
そんな時代に内閣が副業解禁の旗を振ったのです。そこでいくつかの企業が、従業員の不満解消と労働力確保のために、政策に乗っかって副業を条件付で解禁し始めたのです。
政府の後押しと副業解禁の促進について
副業解禁に向けて、企業は「副業禁止」という就業規則の改定をしなければなりません。副業には、企業にも従業員にも双方がwin-winの関係のように思えます。しかし、副業には企業にとっても従業員にとっても、検討すべきデメリットがあります。
具体的に、メリットとデメリットを挙げてみましょう。
副業のメリット
<企業側>
・雇用の維持と労働力確保
第一次ベビーブーム(1947~1949年生まれ)といわれている団塊の世代は、延べ800万人(年間出生率250万人)にも及ぶといわれています。(ただし、戦争が終わった年とその翌年は、政府の人口調査(人口動態統計)が行われていないので正確な数字だとはいえない。)
その次の第二次ベビーブーム(1971~1974年生まれの人)は、団塊ジュニアとも呼ばれていて、年間出生数は約210万人です。
団塊の世代が65歳を超えて退職してしまった今、団塊ジュニアも40代後半から50代前半のアラフィフ世代となり、あと10年もすればこの世代も退職してしまいます。
第二次ベビーブームの後は、人口減少の一途をたどり、団塊世代ジュニアの子供たちの時代は、ベビーブームになるどころか、晩婚化をたどり出生率は低下するばかりです。2016年には、1899年(明治32年)のこの調査以来、年間出生数が初めて100万人を割ってしまいました。
人口減少による労働力が低下する時代に、全ての企業が平等に労働力を確保することは難しく、そのためには副業に頼らざるをえない企業も増加し始めます。
さらに、政府が景気向上に励んでいても、その恩恵を受けている企業はまだまだ少なく、終身雇用を維持できるパワーのない企業が多いのが現状です。
そのため、多くの企業が派遣やパート・請負といった、非正規社員に頼らざるをえない状況です。
このような状況ですから、企業としても本業に差しさわりがない程度なら、副業を認めざるをえないのです。また、育児や介護、病気等で、育児休業・介護休業、その他休職や退職を余儀なくされる有能な社員の雇用を維持するために、テレワークや休職中の副業を認めて、有能な人材の確保に努めています。
・正社員を雇うよりも大幅な人件費削減が可能
副業者の給与は正社員ではないので、請負や委託、短時間労働者ということで、正社員よりも人件費を低く設定できます。彼ら(副業者)の雇用で労働力を維持することで生産性を上げられるなら、人件費削減に繋がります。
<労働者側>
・給料
従業員側としては、毎月の家計の足しになります。お小遣いの足しにもなります。さらに余った場合は、正社員としての給料が減ったときの補填として貯蓄できますので、経済的な安定が見込めます。副業を成功させている人の中には、正社員の給料を上回る収入を得る人もいるくらいです。
・自由な働き方ができる
退社後の空いた時間を副業に費やすことで、空いた時間を効率よく利用することができます。空いた時間だけシフトを組むパートや委託業務の請負は、正社員の仕事が忙しい時や体調が悪い時、私用があるときには仕事を休むことができます。また、いつでも辞めることができます。
・さまざまな職種から仕事を選べる
コンビニや飲食店、引っ越し業者といった職種や、土日だけ、夜だけ等、さまざまな勤務体系で自由な働き方を可能とした職種が増えてきました。また、クラウド上のテレワークを主とした職種も増加してきました。
このようにたくさんの職種の中から、自分のライフスタイルにあった自由な働き方ができる職種を自由に選べる環境が増えてきました。
副業のデメリット
<企業側>
・労働時間の管理
正規雇用先の企業と副業の企業が、従業員の労働時間の情報をリンクさせる事は、現状では不可能です。ですから、現在において副業は自己申告に頼らざるをえません。
今後、副業についてさまざまな法整備がされたとしても、副業の労働時間については自己申告に頼るしかないのが現状です。
また、現在の労働基準法は、2年後の労働基準法改訂後も、残業手当の基準となる労働時間は、2つ以上の企業に勤務する場合は通算することが原則となっています。
通算した場合、残業手当や深夜労働手当等、副業先の企業ばかりが負担することとなり、副業先企業は数時間しか働いていないのに、残業手当や深夜労働手当をいつも持つ事になり、副業先企業は納得しないでしょう。
・業務秘密の情報漏洩
会社の業務秘密が副業の業務によって、他社に漏れてしまう恐れがあります。
・労災や健康保険の法が整備されていない
現在の労働基準法は、終身雇用制を基準に作られているので、副業する人は滅多にいないものとして制定されています。
正社員の場合、副業する暇はない前提なので、労働時間は通算制であり、健康保険も労災も原則正社員の会社が負担することになっています。
例えば、労災事故が起きた原因が、正社員の会社の業務によるものか、副業の会社の業務によるものかが不明であることが多く、さらに言えば両方の仕事をかけ持つ過剰労働が原因という可能性もあります。
となると、正社員の会社と副業の会社、どちらが労災の責任を負うのか不明です。労働時間の通算も整備されていないので、過労判定に重要な労働時間があやふやになりかねません。
<労働者側>
・副業禁止の会社が多い
副業が解禁されたといっても全ての企業が当てはまるわけではなく、いまだ副業禁止の会社が多いのが現状です。就業規則で副業禁止なのに副業をすると、バレたら懲戒解雇になるかもしれないリスクを負いながら業務を遂行することになります。
・本業が疎かになる
副業で過労状態になって、正社員の会社の業務に支障をきたすこともあります。その失敗で、本業に響くようなことがあれば本末転倒です。
・過剰労働で健康を害す
過剰労働で健康を害したり、怪我をしたりといった場合、一般的に労災事故が起きた現場が明らかだとしても、その原因が何処にあるのかが不明となり、労災判定がおりにくくなります。
・確定申告しなければならない
副業をすると、正社員の源泉徴収と副業による収入を合計するために、確定申告が必要となります。
・住民税が増える
副業の収入分だけ住民税の負担が重くなるので、住民税の増加分よりも副業の収入が少ない場合は、働き損になる可能性があります。
例えば、扶養の範囲内で働いていた妻は、副業を始める際に夫の税金控除の金額を検討して働く必要があります。夫の副業についても、住民税の増加分と副業の給与や報酬の金額を比較検討することが必要です。
副業解禁に対する企業の本音
2016年東京商工会議所の副業に関する実態調査によると、調査対象となった702社のうち、「積極的に推進」が15%、「やむを得ず容認」が16%でした。現在、副業は認めていないが「将来的に容認」の方向性を検討している企業は25%でした。(※2)
正社員としての給料が低迷していて、雇用維持のために、社員の兼業要望を受け入れざるを得ないケースが多いという結果が明白になった調査だといえるでしょう。
しかし、企業にとって、副業はデメリットばかりが目に着くのが現状です。何よりも心配されるのが、情報漏洩、労災、仕事が疎かになる可能性ですが、企業が二の足を踏む理由は挙げればきりがありません。
そのため、企業の本音としては、乗り気ではないながらも、企業のパワーが低下しつつある昨今、雇用の維持のために副業を認めなければならないというのが実情です。
それでも、副業解禁とした企業は、副業を従業員の意思に任せた「全面解禁」をする勇気はないようです。従業員の副業を管理すべく、絶対報告義務を課している企業が多いのが現状です。
企業側としては、情報漏洩を恐れるからだけでなく、従業員の健康管理のために、従業員の副業の労働時間を把握する必要もあります。雇用維持のために、副業によって少ない給料の補充をして欲しいという希望もあります。
このような企業のさまざまな思惑によって、許可する副業業務を制限することで、正社員の業務に役立つ副業を推進したり、競合他社への副業を禁止して情報漏洩しないように自社管理したり、従業員の副業には企業によってさまざまな規制があるのが現状なのです。
このように、まだまだ堅苦しい副業解禁ですが、自由とリスクは表裏一体です。自由度が少ない分、何かあったときに企業に守ってもらえる可能性も高いと言えるかもしれません。
<参考・参照サイト>
(※2) 兼業・副業、「積極推進」15% 東商調査「やむなく容認」16% (日本経済新聞 電子版、2016年12月13日)
今後の課題とまだ見ぬ課題の誕生が山積みになっていく?
将来副業が当たり前の時代がやって来ることでしょう。
企業の労働時間の管理や、本業と副業における企業の社会保険料の負担量の分配方法、本業と個人事業主の副業の社会保険と国民保険の分配方法、副業に起因する労災についてはどうするのか、さまざまな課題があります。
そんな中、「今年2月パーソナルキャリア(東京・千代田区)が従業員の副業の勤務時間をアプリで完全管理することができるシステムを開発した」と日本経済新聞(デジタル版)が報道しました。
まだ実施実験段階ですが、今後このような副業にも対応できる勤怠管理システムの開発がますます進むこととなるでしょう。
ただ、このシステムも、まだ雇用形態でない委託業務の副業についての勤務体系を管理するまでには至っていません。法が追いつかないうちに、システムだけが先走った場合の労働者の不利益も生じるかもしれません。
<参考・参照サイト>
・副業時間、正確に管理 パーソルキャリアがシステム (日本経済新聞 電子版、2018年4月24日)
まとめ|副業の将来は?
現在、副業に関する労働基準法がまだ整備されていません。
政府が躍起になって働き方改革の関連法案を検討しているのも事実ですが、2020年に向けての法整備、たった2年の間に、将来のあらゆる副業を網羅する完璧な労働基準法を整備することは不可能です。現在見えている問題(労働時間・社会保険・労災等)の解決が間に合うかどうか程度です。それも穴だらけかもしれません。
副業解禁が広まる現在、法整備が完全に整う未来がやってくるまで、就業規則に従い、それ以外の健康管理や確定申告等々、全てにおいて自己責任で行うべき時代に突入しました。
終身雇用の企業神話が消え去った今、全てが自己責任なら、企業を離れて副業で生計を立てる人が増えてくるのもやむを得ないかもしれませんね。
使われる人と使う人の格差が開いてしまう世の中になってしまうかもしれません。
この記事を書いたのは
- 元社労士のフリーランスライター。資格も多数保有。今は主婦として家族を大切にし、活動時間短めで気ままに執筆中。
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