労働者派遣法の改正を紐解く。同一労働同一賃金と専業フリーランスのあり方。
2020年4月1日より、労働者派遣法が改正され、いわゆる同一労働同一賃金が実現します。
もちろんパートタイム労働者も同様に、パートタイム・有期雇用労働法によって大企業は2020年4月1日から、中小企業は2021年4月1日より施行の予定です。
総務省統計局が公表している2019年の労働力調査結果[1] によると、2018年時点で、役員を除く雇用者が5596万人、その内の正規の職員・従業員は3476万人、非正規の職員・従業員は2120万人となっています。
日本の正規はたったの6割強、非正規は4割弱もいるのです。
スタートライン、入口のちがい。
たったそれだけで生じていた不合理な格差が、法律で半ば強制的に矯正することでしか解消できなかったのが、日本の労働市場の現状です。
まずは労働者派遣法がどのように改正されるのかをひも解きます。
目次
労働者派遣法の改正について
同一労働同一賃金は、働き方改革の一環です。
厚生労働省が発行しているパンフレット[2]によると、まず就業先は派遣会社に、その業務を行う正社員の待遇を明らかにする(提示する)よう義務付けられています。
次に、派遣会社は正社員の待遇を明らかにしない就業先と契約をすることはできません。
つまり、正社員の待遇を明らかにできない会社で派遣社員は働けないということです。
そして基本給、賞与、その他の待遇について正社員と比べて、不合理な相違がないものとなります。
しかしながら、今まさに派遣社員として働いている方にとって、最大の関心事はストレートに「手取りは上がるのか」だと思います。
そこで調べてみたところ、日本経済新聞には以下のように報じられていました。
正社員と非正規社員の不合理な待遇格差を禁じた「同一労働同一賃金」は4月から派遣社員にも適用される。通勤交通費や退職金などが時給に上乗せされ、手取りは大幅に増える見通しだ
出典:「人材確保へ待遇改善必要」(日本経済新聞、2020/1/16)
記事を読む限りでは手取りは増える見込みです。
しかし私は、同一賃金同一労働は本当に大丈夫なのかと感じています。
なぜなら、派遣会社手数料が存在するからです。
ご存じの方も多いとは思いますが、今一度、派遣の仕組みについて説明します。
派遣の仕組み
派遣会社は、派遣社員を送り出すことで、就業先が支払う手数料によって利益を得ています。
あくまでも一例ですが、その手数料はパーソルテクノロジースタッフのホームページ[3]によると、就業先から支払われた時給の7割が派遣社員の手取り、3割が派遣会社の諸経費にあてられるとしています。
また、派遣のほか正社員の転職でも同じような仕組みが存在します。
それが、いわゆる転職エージェント会社の支援を介した転職(職業紹介)です。
職業紹介の仕組み
職業紹介業の多くは、無料で提供されています。
これは、求職者から手数料を取らないという意味であり、それでは営利企業として成り立っていきません。
ではどうやって利益を出すのかというと、転職先企業から手数料の支払いを受けています。
ダイヤモンドオンラインによれば、転職エージェントに支払う職業紹介手数料の相場は、年収の35%、または70~120万円となっています。[4]
また、会社が正社員、派遣会社にそれぞれ年間300万円を支払っているとすると、人件費の内訳は下記のようになります。
手数料・税金 |
給与 |
合計 |
|
---|---|---|---|
正社員 [5] |
60万円 |
240万円 |
300万円 |
派遣社員 |
90万円 |
210万円 |
300万円 |
※派遣社員の人件費については、「派遣会社 3:派遣社員 7」[6]より算出。
ですが、4月からは正社員も派遣も関係なく同一労働同一賃金です。つまり、下記のような給与金額となり得ます。
手数料・税金 |
給与 |
合計 |
|
---|---|---|---|
正社員 |
60万円 |
240万円 |
300万円 |
派遣社員 |
103万円 |
240万円 |
343万円 |
おそらく就業先の対応は5つに分かれ、派遣社員は全体的に減るのではないか、と私は思うのです。
派遣法改正で予想される会社の対応5つ
①今いる派遣の正社員化を目指す
②正社員の待遇を派遣並みに下げる
③正社員をリストラする
④派遣の受け入れ数を減らす
⑤派遣の受け入れをやめる
派遣法改正によって、これらの対応が考えられますので、個別に見ていきます。
①今いる派遣の正社員化を目指す
紹介予定派遣という制度もあり[7]、これが本来、望まれるパターンです。
②正社員の待遇を派遣並みに下げる
人件費については予算を組んでいるはずです。「人手は欲しい、しかし予算が……。」という会社は多いでしょう。
正社員の待遇をググっと派遣並みに落とし、人手を維持することは考えられます。
また待遇を下げる代わりに、正社員の副業を一部認める、もしくは推奨するようになる可能性があります。
③正社員をリストラする
待遇を下げるならば、まだいいほうなのかもしれません。
黒字なのに正社員をリストラする時代ですから、なかには正社員をリストラすることで人件費を維持する動きも予想できます。
④派遣の受け入れ数を減らす
会社のなかには、派遣の人数を減らすことで、人件費を維持するところもあるでしょう。
正社員は現状維持、派遣は手取りアップしますが、残された社員で業務を行うことになりその負担増が予想できます。
⑤派遣の受け入れをやめる
現在有効な派遣契約を更新せず、満了させつつ、派遣の受け入れを徐々にやめる会社も出てくるのではないでしょうか。
これらのことから、正社員や派遣社員のなかには、同一労働同一賃金を機に副業をはじめ、フリーランスへと転身する方も出てくるでしょう。
仕事獲得が狭き門に
つまり、副業者やフリーランスの人口増が見込め、私たちはこれまで以上に新規顧客開拓シーン、契約更新タイミングで仕事獲得が狭き門になっていくことを心づもりしておかなければならないのかもしれません。
最後に専業フリーランスのあり方と、同一労働同一賃金をどのようにとらえていくべきかについてお伝えします。
専業フリーランスのあり方
現在、好調に仕事を獲得し、同一労働同一賃金の影響などを受ける心配がなさそうなら、このまま、これまで通り“いい仕事”をされるのが良いでしょう。
専業だけでは雲行きが怪しくなってきたフリーランスは、仕事内容の見直しをするほか、4月以降は求人情報サイトなどで自分の得意分野の求人をチェックし、同一労働同一賃金で好待遇化した派遣求人を見つけたら検討するのはアリです。
同一労働同一賃金を見積書に反映させる
私は専業フリーランスとして、2020年4月以降、類似事業領域、類似職種(編集・ライター職)の派遣時給がいくらなのかは定期的にチェックし、データとして活用するつもりです。
見積書を出しているにもかかわらず、あまりにも安価な金額を逆提示してくる新規クライアントをつっぱねる前に、実際の求人を提示し、一般的な会社は時給に派遣会社手数料を上乗せして支払っていると説明します。
いかに見積書の提示額が適正で見合ったものかを納得いただく、その有効な材料のひとつにしたいと思っています。
まとめ
同一労働同一賃金のスタートによって、正社員や派遣社員から副業・フリーランスへの転身、人口増は容易に想像できます。
ですが、好待遇化した派遣とのWワークや求人は、適正な価格交渉の有効材料ともなり得ますし、利用の仕方によっては逆風を追い風に変えることができると私は信じています。
<参考・参照サイト>
[1]「労働力調査(詳細集計)2019 年(令和元年)平均(速報)」[PDF] (総務省統計局、令和2年2月14日、p18)
[2] 「同一労働同一賃金に関する改正の概要」(厚生労働省)
[3] 「派遣料金の相場、内訳、仕組みとは」(パーソルテクノロジースタッフ、2020/2/3更新)
[4] 「転職を考える人が、すぐ転職サイトやエージェントに登録しては「いけない」理由」(ダイヤモンドオンライン)
[5] 「年収300万の生活レベルは?手取り月収や平均貯金額や税周りを解説」(Career-Picks、2020/1/28更新)
[6] 「派遣料金の相場、内訳、仕組みとは」(パーソルテクノロジースタッフ、2020/2/3更新)
この記事を書いたのは
- 本業ライター。2014年12月、Lancers登録を機に業務開始。主にビジネスやライフスタイル関連の記事を執筆。必要に応じて取材・撮影もこなす。
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