給与に消費税は関係ありませんので、通常会社員だと買い物の時に「消費税が上がって、物価が高くなったなあ」と感じるだけで、その先を意識することはなかったと思います。
フリーランスになると、請求事務から申告納付にまで関わることになりますので、消費税について分かっていないと、場合によっては損をすることもあります。
申告納付まですると感覚が掴めるのですが、フリーランスにとって消費税は預かり金です。取引先から預かって、自分が経費などを使う際に支払った(預けた)分を差し引いて納付します。
ここでは、消費税について、フリーランスとして活動するのに最低限必要な知識を解説致します。
消費税の基本的な仕組み
消費税は、間接税と言われるもので、消費者が負担しますが、納付は事業者がします。これをフリーランスに当てはめると、以下のような形になります。
取引先
↓ 売上に含まれる消費税
フリーランス
↓ 必要経費に含まれる消費税(仕入税額控除と言います)
仕入先や小売店
売上に含まれる消費税 - 必要経費に含まれる消費税 = 納付する消費税
納税義務者
消費税は、全ての事業者に納付義務があるものではありません。正しい申告書を作成しようと思うと、知識が必要になり、また手間もかかることから、以下に当てはまる事業者は免税事業者となります。
・基準期間(前前年)の課税売上高が1,000万円以下の事業者
※ただし、特定期間(個人の場合は前年の1月~6月)の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、課税事業者となります。課税売上高に代えて、給与支払総額で判定することもできます。
【参考・参照サイト】
『No.6501 納税義務の免除』(国税庁)
課税売上高
消費税の計算において、難しいことの一つが課税売上高かどうかの判定です。
消費税の課税対象取引とは、
(1) 国内で行う取引
(2) 事業者が事業として行う取引
(3) 対価を得て行う取引
(4) 資産の譲渡等と外国貨物の輸入
です。この (1) ~ (4) の要件を全て満たすものが課税売上となります。
ただし、上記の要件を満たしても、政策目的や消費税を課税すべきではない取引については、非課税という区分があります。また、輸出に係る一定の取引は免税取引となり、上記課税取引の要件を満たしていない取引は不課税取引となります。
具体例を挙げて整理します。
・課税取引
ハンドメイド作品の売買、コンサルティング報酬、ライティングなど
・非課税取引
土地の賃貸借取引、利子、介護保険サービスの提供など
・免税取引
輸出取引
・不課税取引
同業者団体の会費で対価性のないもの
【参考・参照サイト】
『No.6117 課税の対象となる取引』(国税庁)
申告業務
消費税の申告と納付は翌年の3月末までに行います。一般的には確定申告と同時に行って同時に納付することが多いです。フリーランスで該当する人は少ないですが、前年の消費税額(※地方消費税を除く)が48万円を超えていた場合、中間納付をする必要があります。(申告はしなくても納付さえすれば問題ありません。)
※申告書を見るとよく分かるのですが、消費税8%は、消費税6.3%と地方消費税1.7%で構成されています。よって、売上や経費に含まれる消費税は、正確には「消費税等」という表現になります。
簡易課税制度
基準年度(前前年)の課税売上高が5,000万円以下の場合、簡易課税制度を選択することができます。簡易課税制度を採用した場合、事業の種類を6つに分類した上で、課税売上にみなし仕入率を乗じた額を税額から控除して納付します。
フリーランスで消費税の課税事業者となる人の多くは、この簡易課税制度の対象となると思いますので、少し詳しく解説します。
注意することは、事前に届け出が必要なことと、届け出た場合は強制的にその対象年度は簡易課税を採用して計算するため、不利になる場合があることです。
<具体例> ※計算は簡単にしています。
(1) 課税売上2,160万円(サービス業 みなし仕入率50%) 課税仕入540万円
【原則計算での申告納付額】
2,160万円÷1.08×0.08 △ 540÷1.08×0.08 = 120万円
【簡易課税での申告納付額】
2,160万円÷1.08×0.08 △ 2,160万円÷1.08×0.08×50% = 80万円
⇒簡易課税の方が40万円有利
(益税と呼ばれるもので、本来はおかしいのですが、消費税で儲かることになります。)
(2) 課税売上2,160万円(サービス業 みなし仕入率50%) 課税仕入1,296万円
【原則計算での申告納付額】
2,160万円÷1.08×0.08 △ 1,296万円÷1.08×0.08 = 64万円
【簡易課税での申告納付額】
2,160万円÷1.08×0.08 △ 2,160万円÷1.08×0.08×50% = 80万円
⇒簡易課税の方が16万円不利
(サービス業であっても、外注さんに手伝ってもらっている比率が高い場合などは、上記のように不利になることがあります。)
簡易課税制度のみなし仕入率は、その業種の平均的な課税仕入率から定められていますので、少し特殊な状況であれば、より多くの益税が生まれたり、不利になったりします。
届出はその対象期間の前日までにする必要がありますが、その時には翌年度の収入や支出の見込みをよく考えてから提出しましょう。特に固定資産など大きな買い物をする予定があれば、不利になる可能性が高くなります。
【参考・参照サイト】
『No.6505 簡易課税制度』(国税庁)
フリーランスの注意点
ここからは、フリーランスが特に気を付けておくべきことを並べていきます。
(1) 消費税の免税事業者であっても、売上請求時には消費税を乗せる
消費税は課税取引に該当すれば、事業者の状況に関わらず預かる必要があります。これをせずに請求することは、実質的には消費税分の値引きになります。
例えば、税抜100万円の売上時に税込108万円で請求するものを、消費税を付記せず100万円の売上としたとしても、先方では税込100万円で処理することになります。税抜では925,926円となり、その差額は値引きしたのと同じです。
(2) 免税事業者は、納付すべき消費税は全て益税になる
(1) の続きになりますが、税込で請求するにも関わらず申告は免除されますので、申告納付すべき税額は全て益税になります。それで大丈夫です。
(3) 消費税の認識誤りはどちらかが不利になる
たまにあるのですが、意図せず消費税の課税、不課税の判定を誤ったまま請求してしまうことがあります。例えば、取引先の備品を壊してしまったとき、賠償金として先方から税込108,000円の請求がきて、そのまま支払ったとします。「備品を直す金額=賠償金」となっておらず、単に慰謝料のような形で支払う場合、通常は対価性無と判断し、消費税は不課税です。
取引先も当方も同じく課税取引として処理していたとしても、実際には不課税取引ですので、消費税として支払ったつもりの8,000円は仕入税額控除できません。ですので、当方にとっては不利になります。
認識を合わせておけば問題無しということにはなりません。
(4) 税抜経理、税込経理により微妙な有利不利が生じる
会計処理の方法として、税抜経理と税込経理の2種類があります。
税抜経理では、決算書で表示される売上などは全て税抜額になり、税込経理では、全て税込額になります。事業者にとって消費税は預かり金という認識ですので、基本的には税抜経理が有利になりますが、一点税込の方が有利なことがあります。どちらを選択するかは難しいところですが、個人の方は、簡易課税制度を使っていることが多いため、税込経理にしている場合が多いと思います。
<税抜処理の有利な点>
固定資産税の少額判定(30万円)をする時に、税抜額で判定できます。消費税の分だけ、税込経理より範囲が広がります。
<税込処理の有利な点>
消費税は経費として処理することになるため、その年の経費とするか翌年の経費とするかを選択できる。ただし、継続適用が前提のため、利益調整として毎年変更することなどはできない。逆に言えば、その後継続するという前提であれば変更することは可能です。
まとめ
フリーランスであっても基準を満たせば、消費税の申告納付義務があります。また、免税事業者でも消費税は請求できます。不利なことにならないよう上述の内容までは理解しておいた方がいいでしょう。
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