働き方改革の目玉!高度プロフェッショナル制度は、本当に的外れの悪法なのか?
働き方改革の目玉ともいわれている通称「高度プロフェッショナル制度」は、メリット部分だけ考えると、理想の働き方を実現できる夢の法案のように見えます。
しかし一方では、「残業代ゼロ法案」「過労死法案」と猛反対されています。
日本では「残業ゼロ法案」「過労死法案」と悪法だという意見が多く、2018年4月施行予定だったにも拘らず、土壇場で見送られてしまいました。
この法案のメリット・デメリットを考え、対象業務の現実問題と照らし合わせて、高度プロフェッショナル制度が新時代の働き方改革として、本当に悪法なのかを考えてみましょう。
目次
政府の働き方改革が狙う的外れでない「高度プロフェッショナル制度」とは?
「高度プロフェッショナル制度」は「労働基準法41条2」の改定
働き方改革の推進案にある通称「高度プロフェッショナル制度」とは、「労働基準法41条2」の改定案です。
従来の「労働基準法41条2」は、管理監督の地位にある者は、労働時間・休憩時間・休日に関する規定を除外する、という内容です。
いわゆる管理・監督の地位にある者(実際の権限がない者は除く)は、経営者側の人間であるので、労働者の規定を除外するという内容です。
しかし、働き方改革では、この対象者を拡大して、管理・監督の地位に加えて、次のように対象者を拡大する予定です。
「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする」
上記は『第196回国会(常会)提出法律案』(厚生労働省)の『働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案(平成30年4月6日提出) 法律案要綱』に明記されています。
高度プロフェッショナル制度の対象者とは?
働き方改革の「高度プロフェッショナル制度」の具体的対象者は、今後省令で定めることとし、とりあえず今決まっているのは、厚生労働省が定める一定年収以上の以下の職種です。
ちなみに、厚生労働省が定める一定年収とは、厚生労働省が全国の企業に実施している「毎月勤労調査」によって算出した労働者の平均月収を年収に換算したものを基準に省庁で定めた数字です。そのため、景気によっては変動する可能性があります。
現在のところ、年収1,075万円以上で「高度の専門的知識を有する労働時間と業務成果の関連性が高くない職種」だと考えられる職種が対象です。
省令に定められる職種として予定されている職種は、金融商品の開発業務やディーラーやアナリスト、コンサルタント、研究職等が対象と想定されています(※1)。
厚生労働省の法律案には、具体的職種として入っていませんが、IT関係のプログラマー・システムエンジニア等のエンジニア系の職種も含まれるのではないかとの意見もあります。
<参考・参照サイト>
※1 『「労働基準法等の一部を改正する法律案」について(PDF)』(厚生労働省)
「高度プロフェッショナル制度」の導入の仕方
高度プロフェッショナル制度は、働き方改革の目玉です。
該当職種の労働者は、成果主義であり、個人業務が多く、時間に縛られない職種であることから、給与が低下しないことを条件に、労働時間や休憩・休日の概念を外した方が「労働者も経営者も喜ぶ結果になる」というのが政府の考え方です。
しかし、労働者を労働時間・休暇・休日の概念から外すのですから、労働条件が今までの状態よりも低下してはなりません。
そのために、「従前の給与よりも低下しない」事を定め、「労働者本人の同意」を条件に、その上で下記に記すさまざまな手続きが必要です。
また、以下に定められた内容は、省令や通達で定めるのではなく労働基準法に定められることになるので、違反した経営者には罰則規定が生じます。
では、次に高度プロフェッショナル制度を導入する場合、労働基準法内のどのような手続きが必要かを解説していきます。
■就業規則について
・就業規則に高度プロフェッショナル制度に関する必要事項の明記と行政官庁への届け出
■労使協定について
・労使委員会・労働組合の5分の4以上の多数決議と行政官庁への届け出
■労働契約について
・高度プロフェッショナル制度の対象者となることに対する同意
(「同意の撤回可能」が改訂版労働基準法に明記される方向へと現在審議中)
・給与については、高度プロフェッショナル制度導入以前よりも低下してはならない
■勤務時間について
・経営者(人事含む)が該当労働者の「社内勤務時間」と「社外勤務時間(在宅勤務時間含む)」を「健康管理期間」として把握するための処置が必要
・健康管理期間として、社内にいる時間だけでなく社外で労働した時間も含め、1ヶ月または3ヶ月の範囲内で労働時間の上限を設けること
・勤務間インターバル制度、深夜労働の回数の上限を設けること(選択処置1)
■休日について
・1年104日以上、4週4日以上の休暇を労働者に付与すること(選択処置2)
・年次有給休暇以外に、1年に1回以上2週間の連休を与えること。労働者が希望した場合は、1週間の連休を2回与えることに替えることもできる(選択処置3)
■安全衛生法に関すること
・健康管理期間において、健康・福祉に関する処置として、労働時間と休日に関する「選択処置1~3」のうち、1つ以上講じること
・臨時の健康診断をおこなうこと
・法令で定められた法令で定められた残業時間を超える者には医師の面接指導を強化し、1ヶ月100時間を超える残業をした労働者には、強制的に医師の面接指導を受けさせること
的外れでない働き方改革の「高度プロフェッショナル制度」のメリット
働き方改革における「高度プロフェッショナル制度」のメリットを紹介し、その解説をします。
・成果主義なので、フレックスタイム制度以上に勤務時間が自由となり、在宅業務も可能となる
・成果主義なので、無駄な残業稼ぎのダラダラ残業の概念がなくなるので、早く帰ろうともモチベーションが上がる
・労働時間の評価ではないので、残業できない環境にある人にもチャンスが生まれ、仕事へのモチベーションが上がる
・お付き合い残業の風習がなくなる
高度プロフェッショナル制度は、残業時間・休暇・休日の概念がなくなる働き方ですが、見方を変えれば自由な働き方ができるということが一番大きなメリットです。
フレックスタイム制度のように出勤・退勤の時間が自由になるだけでなく、休日の概念もないので、在宅業務も可能になります。
そのため、家事や育児・介護等、プライベートと仕事の両方を充実させることができます。
今まで、仕事の時間にライフスタイルを強制的に合わせなければなりませんでしたが、高度プロフェッショナル制度の働き方は、自分のライフスタイル中心に仕事をすることが可能となるのです。
的外れな働き方改革となりそうな「高度プロフェッショナル制度」のデメリット
働き方改革の中でも、「高度プロフェッショナル制度」のデメリットを紹介し、解説します。
・期間内に成果を挙げないといけないので、真面目な人ほどサービス残業が増えることになる
・年収が1,000万円以上でも、基本給が高いわけではなく、過労死なみの残業代で1,000万円越えの高報酬となっている人の場合、基本給に法定上限残業時間を加味しても、従来の年収より低下することもありうる
・勤務評価が無い成果主義の評価のみになった場合、自分よりも有能な人が上司でなければ、成果を理解して貰えず、正当な評価をえられないこともる
・法律上は本人の同意によって成立する制度であるが、企業によっては無理矢理忖度による同意を迫られることもある
・職務範囲を明確にした「職務記述書」に馴染みの無い日本にとって、その内容が明確でない場合は関連仕事が増加してしまうこともある
・成果を上げられないと、仕事が終わらない状態に心身ともに追い込まれ、ストレスフルな状態(この状態が長期に及ぶと過労死を招く)になる可能性がある
・終業時間が無いので、会社の風習によっては自分の仕事が終わっても帰れない可能性もある
そもそも、政府が予定している高度プロフェッショナル制度の該当職種は、残業の非常に多くなりがちな職種ばかりです。
だから、少しでも労働条件が低下しない状況で、政府は残業を少しでも減らすことを目的とした法律なのです。
そこで問題となるのが「給与」の概念です。
労働者は、残業代を含む年収を給与と認識します。
ところが、会社の給与の概念は「基本給」であり、残業代はあくまで「残業手当」という追加手当なのです。
そのため「給与を下げない」という政府の条件は、「基本給(役職手当・能力給を含む)を下げない」という認識と考える可能性もあります。
そこで、会社は高度プロフェッショナル制度の対象者の給与を「基本給+想定残業時間」として算出します。
ここで、「成果を上げるのに必要な想定労働時間」という点で労働者と会社の間でズレが生じた場合、年収の低下となる可能性が生じるのです。
また、職務記述書を書くのは会社の人事です。
「職務記述書にない事はしない」という働き方は日本には根付いていません。
職務の成果を上げるには、人それぞれのやり方があります。その独自のやり方があるおかげで、他の人よりも成果を上げているにもかかわらず、現場の実態がわからない人事が職務記述書を書くわけです。
想定労働時間にズレが生じるのは当然ですよね。
先ほど述べたように想定労働時間にズレが生じた場合、給与が減少してしまいます。労働者が抗議しても、残業時間が長いのは仕事の効率が悪いからだという評価にもなりかねません。
そうなった場合、高度プロフェッショナル制度はまさに的外れの「残業ゼロ法案」「過労死法案」となってしまうのです。
高度プロフェッショナル制度は表裏一体!働き方改革的外れ法案となる可能性も?
働き方改革の高度プロフェッショナル制度は日本人の気質に合わない?
米国ではすでに「ホワイトカラーエグゼンプション」と呼ばれる高度プロフェッショナル制度と似たシステムが稼働しています。米国でこの制度が成功しているのは、はっきりと権利主張をする米国人ならではの自然淘汰力が企業のモラルを維持しているからです。
米国では、会社が労働契約で明記した「職務記述書(該当する職務能力と職責と職務内容を具体的に明記した書類)」が各労働者に与えられるのが通例で、その人材が退職した場合は、社内公募や中途採用で社外から人材を募るのが一般的です。
職務内容が労働契約と矛盾していたり、労働環境に不満があった場合は、職務記述書を武器に即退職しても、転職市場に似たような「職務記述書」の求人があふれているのです。
しかし、日本には米国のように労働者各人の「職務記述書」の馴染みが無く、所属する部や課の中で職務の枠が定められているのが一般的です。
そのため、会議や打ち合わせで情報を共有し、課全体の枠内のチームワークで成果を出すシステムとなっています。
つまり、労働者が退職したり休暇をとった場合の穴は、米国とは違い、全員で埋めるシステムが一般的なのです。
日本のこのような社会習慣が、労働時間の長時間化を誘発しているともいわれています。
そのため、米国の労働習慣に合わせて作られたホワイトカラーエグゼプションを日本に取り入れたとき、米国のように日本は転職市場の需要が大きくないという点が問題になるのです。
日本では法による自浄作用が米国のように働かず、経営者だけが笑う「残業ゼロ・過労死方案」という的外れな悪名高い法制度となってしまう可能性が否定できないのが実情です。
高度プロフェッショナル制度は日本人の気質を無視した的外れ方かも?
高度プロフェッショナル制度の導入を考えるとき、日本の風習的な問題もあります。
日本人の気質を無視した側面が強いために、働き方改革を的外れ法案として「残業ゼロ法案」「過労死法案」と揶揄して騒いでいるのです。
では、日本人の気質を考えてみましょう。
まず、日本では仕事の成果は本人の努力や才能だけでなく、「会社のバックアップがあってこその実力」と考える人が多いです。
そのため、大手企業を退職すると同時に独立を考える人は少なく、企業に就職するも次の就職先に恵まれず、業界を変える、または以前の環境よりも条件を下げて働く人が後を立ちません。
また、日本はチームワークを重んじる風習があります。
高度プロフェッショナル制度を遂行する場合、よほど詳細で明確な職務記述書を用意しないと、仕事が遅れている仲間を手伝うことになり、かえって仕事が増えてしまうかもしれません。
さらに、「2週間の休日を与える」規定があっても、仕事は減らず成果も上げなければならないので、結局休日が取れないうえに休日労働の手当もない、サービス残業の蟻地獄にハマってしまう可能性もあるのです。
例えば、証券マンの場合、2週間のお休みの間に株価の変動があっては大変と、うかうか休んでいられない人もいるでしょう。
欧米諸国では、1~3ヶ月もの長期休みをとる人もいます。
日本人の場合、そんな長い休みを楽しむ勇気がある人は少ないかもしれません。
「家族を犠牲にしても、家族のために必死に働く」そういう考えもまだ多くの人に根付いています。
また、日本人の場合は担当者制度の側面も強く、お客様から「○○さんでなければ」ということを言われることもあり、なかなか長期休みが取れない習慣があります。
つまり、企業が徹底して休暇を与える規定を作っても、お客様がそれを良しとしない場合もあるのです。
成果を上げるためにお客様の意向を重視し、結局休暇中も働くことになりかねません。
しかし、休暇中に勝手に働いた時の事故や怪我には労災はおりません。過労死しても、会社の責任は無いのです。
つまり、合法的なサービス労働が横行する結果にもなりかねないということで、「過労死法」と揶揄されています。
また、労働者本人による同意であるのに、上司や周りの環境を忖度しなければならないなんて、日本独自の習慣でしょう。
在宅勤務の労働時間の把握システムもまだまだ不十分なので、会社が労働時間を把握するために、在宅勤務に制限がかかることも考えられます。
そして、企業に委ねられる評価システムにも課題があります。
上司よりもダントツに有能であっても、コミュニケーション能力が低いために正当な評価が貰えないなど、さまざまな理由で正しい評価をしてもらえない人材も出てきます。
米国では成功したのに日本では的外れ法案になる可能性があるのはなぜ?
この評価システムの問題は米国でもあるはずですが、米国で問題にならないのは理由があります。
権利を主張する文化が根付いている米国の場合、正当な評価をしてもらえない時には、上司が無能だと人事に訴えることができる制度があります。
つまり、米国では無能な上司が有能な部下の仕事を無にしている実態は、会社の利益にならないという結論に至るのです。
そのような意見が多くあげられた場合は、その上司に淘汰作用が働きます。
そして、会社の体質に不満があれば、有能な人材は転職を考えます。
業務上で被害を被った場合、訴訟大国である米国では「それでは裁判で会いましょう」という考え方になります。
このような文化で形成された社会だからこそ、米国ではホワイトカラーエグゼンプションが成立したのです。
しかし、日本の転職市場は米国ほど需要が高くありません。
訴訟なんかしようものなら「すぐに訴える人」とマイナス評価され、次の就職に響いてしまう可能性があります。
その結果、日本では企業の力が労働者よりも圧倒的に強くなってしまうわけです。
高度プロフェッショナル制度を夢の法案として施行させるためには、的外れ法案とならないように、考えられるデメリットを払拭すべく、まだまだ国家的に検討すべき課題が山積みです。
【まとめ】高度プロフェッショナル制度の向き不向きはフリーランスに向いているかにも繋がる?
いかがでしたか?
該当職種に従事している人の中でも、効率よく仕事ができ、成果を出すことが喜びであり、かつ仕事が趣味のような人にとっては、健康管理も休日も保証された高度プロフェッショナル制度の働き方改革は、夢のような法案かもしれません。
しかし、このような人はほんの一握りで、フリーランスとして独立してもきっと成功をおさめているでしょう。
また、高度プロフェッショナル制度の適用には、対象労働者の仕事の能力だけでなく、対象者の性格も考えなければ的外れな悪法になってしまう可能性もあります。
高度プロフェッショナル制度のメリットを十分に活用するためには、非常に高い自己管理能力が必要だからです。
人によっては、チームワークがあるから成果が上げられる人、上司がいるから高い成果が上げられる人もいます。
つまり、会社の労働時間に縛られて残業して、残業手当が成果のモチベーションになっている人もいるのです。
一方で、自分の仕事が終わったからと割り切って退社できない体質の人もいます。
このような性格の人は、高度プロフェッショナル制度は不向きです。
でも、性格的な問題については、自分に合うかどうかはやってみないとわからないかもしれません。
そのため、政府は対象者本人の同意だけでなく「撤回する権利」も法で定める予定です。
同時に、もしも高度プロフェッショナル制度を企業から打診されたとき、対象者が辞退しても対象労働者にデメリットが生じないシステムを作る必要もあります。
あなたは、高度プロフェッショナル制度の同意を求められたらどうしますか?
もしあなたが、将来フリーランスを希望しているなら、この高度プロフェッショナル制度を有効活用できるかどうか、チャレンジしてみるのもお勧めです。
この法案は、対象者本人の同意とともに撤回する権利もまとめられる方向で審議が進められています。
だから、もし高度プロフェッショナル制度が自分に向いてないと思った時は、すぐに撤回して通常の勤務体制に戻してもらえばいいのです。
自分のスキルや性格に合わせて、最適な働き方を選択できるように意識していきたいですね。
この記事を書いたのは
- 元社労士のフリーランスライター。資格も多数保有。今は主婦として家族を大切にし、活動時間短めで気ままに執筆中。
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