2019年4月から「働き方改革法」が順次施行されます。「少子高齢化対策」、「多様化する働き方に対応可能な環境づくり」を目的とした法案です。
政府は「少子化」対策に重点をおくと宣言しています。そんな中、「少子化」から脱するために「働き方改革法」が注目されます。
「働き方改革法」では「残業時間の上限制度」、「有給休暇の取得義務」、「同一労働同一賃金」、「裁量労働制」、「高度プロフェッショナル制度」が導入されます。
これらの制度の導入によって労働者の働き方に変革の波が迫っています。
現在、事業所はフレキシブルな働き方として「フレックスタイム制度」を導入しています。
「フレックスタイム制度」は1日の従業時間を調整できる制度です。出勤時刻や退勤時刻を個人の働き方に準じることができる柔軟性を持っています。
公共交通機関の混雑緩和や自動車通勤時の渋滞の緩和により、省エネルギー化にもつながっています。
そんな中、2019年から、就業時間を1ヶ月単位または1年間単位で平準化して運用できる「変形労働時間制度」の導入が始まります。
この制度は、業界ごとの繁忙期や閑散期といった、季節に応じた適用が可能な従業形態です。これから「変形労働時間制」の解説をしていきます。
「変形労働時間制」はどのような制度なのか?
では、「変形労働時間制度」を解説します。
「変形労働時間制度」は一定の単位期間で労働基準法上の労働時間の規制を1日単位・1週間単位でなく、単位期間による平準化した平均労働時間とする制度です。
現在は労働基準法第32条で「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」と規定されています。
この規定を超えるときは時間外労働(残業)になり時間外手当(残業代)を支給しなければなりません。
「変形労働時間制」は労働単位を1日・1週ではなく、1ヶ月・1年単位で平準化する制度です。
例えば、1週目は前月末から処理があるので48時間就業しますが、2週目は32時間就業になるように、繁忙期が月・季節で分散するケースは「変形労働時間制度」を導入することで時間外手当(残業代)支給の抑制になります。
「変形労働時間制」が「働き方改革法」の「裁量労働制」や従来から導入されている「フレックスタイム制」とともに労働時間規制政策の一環であることはこれまでに述べましたが、「フレックスタイム制度」と「変形労働時間制」は異なる点があります。
「フレックスタイム制度」は従業員が始業・終業時刻を自身で決定して働くことができる制度で、「コアタイム」という就業時間帯を自由に決められない固定時間帯があります。導入例では10:00~15:00を「コアタイム」としている企業が多いようです。
対して「変形労働時間制」は所定労働時間を定める必要があり、1ヶ月単位・1ヶ月を超える単位を期間とします。
所定労働時間の総数は法定労働時間の範囲内に収める必要があり、その計算式は以下のようになります。
「変形期間における法定労働時間の上限=40時間(※)×変形期間の暦日数÷7」
※従業員数が10人未満で、商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業の事業場については44時間
以下は、変形期間における法定労働時間の上限早見表です。
<1ヶ月単位の場合>
変形期間の暦日数 |
上限時間 |
28日 |
160.0時間 |
29日 |
165.7時間 |
30日 |
171.4時間 |
31日 |
177.1時間 |
<1年単位の場合>
変形期間の暦日数 |
法定時間 |
365日 |
2085.7時間 |
366日(閏年) |
2091.4時間 |
上記の通り、繁忙期・閑散期を勘案して日・週・月・季節による労働時間の変動を平準化し、かつ法定労働時間の上限を超えないような制度設定です。
「変形労働時間制」の取り決め方は?
「変形労働時間制」を導入する企業は労使間で合意が必要で、「変形労働時間制」の勝手な導入はできません。
また、労使間の合意後に所管の労働基準監督長へ届出が必要になります。
労使間の合意を「労使協定」といいます。
「労使協定」は事業所内で就業する従業員の過半数で構成された労働組合、または労働者の過半数の代表が事業主と交わす、就業条件が記載された書面で「協定書」とも称します。
「労使協定」は法律で保護されますが、「労使協定」書類だけで労働契約の成立はできません。
「労働協定」書類の他に労働協約・就業規則を合わせて規定する必要があります。
就業規則は従業員が10人以上のときは所管の労働基準監督署長の届出が必要ですが、従業員が10人未満のときは、社内規定を記した書類を「就業規則に準ずるもの」を用意する必要があります。
「変形労働時間制」を導入する事業者は従業員が10人未満でも提出する必要があるため「就業規則に準じるもの」が必要になります。
また、「変形労働時間制」を導入するときは36協定との整合を保つことが重要です。
労働基準法第36条において、法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超えて労働するケース・休日出勤したケースは、あらかじめ労使間で書面による協定を締結しなければなりません。
法定労働時間を超えたときは時間外手当(残業代)を支給することを労使間で合意する必要があります。
「変形労働時間制」は、定められた特定日・特定週・特定月に、労働基準法第36条による法定労働時間(1日8時間・1週40時間)の範囲を超過しても違反にならない制度です。
法定労働時間を超えて就業する(残業や休日出勤)従業員が1人以上いる事業者は、所管の労働基準監督署長に協定届の提出が必要です。
「変形労働時間制」の導入によって定められた特定日・特定週の勤務時間を超過したときは時間外手当(残業代)を支給する届出が必要になります。
この場合、1ヶ月単位の「変形労働時間制」を導入する事業所は超過労働時間を把握できますが、1年単位の「変形労働時間制」を導入する事業所は超過労働時間の把握が難しくなります。
「変形労働時間制」が対象になる業界は何か?
「変形労働時間制」を導入対象になる業界を解説します。年間で繁忙期と閑散期がある業界が対象になります。
対象業界は以下の通りです。
①商業系で卸売業・小売業・理美容業・倉庫流通業
②映像・演劇業界で映画の映写業・演劇業・興業
③保険衛生業で病院・診療所・社会福祉施設・介護施設・浴場業・保健衛生業
④接客娯楽業で旅館・ホテル・飲食店・ゴルフ場・公園・遊園地・海水浴場・スキー場の接客
娯楽業界
⑤教育関連業で教諭・講師・助教・教授などの春季休暇・夏季休暇・冬季休暇がある教育関連業
この中で、特に小中学校の教諭の長時間労働が問題視されています。
現在、「変形労働時間制」導入を視野に入れた提案が中央教育審議会の部会で示されています。
そのため、教育関連業は学期内に週3時間の勤務時間を増加させると同時に、年間15日の休暇を取得可能とする勤務体制を検討しています。
しかし、部会で春季・夏季・冬季の長期休暇が示されていても、部活の指導や教諭自身の研修会への参加などにより実質的に休暇が取得できないのが現状です。
「小手先の改革では根本的な解決につながらない」と現場から声が上がっており、結論が出ていません。
一方で、「変形時間制度制」を導入して成功している事業所があります。
大手小売店チェーンのファーストリテイリングでは、ユニクロの地域正社員を対象に「変形労働時間制」により1日の労働時間を10時間に延長し、土曜日・日曜日・祭日を含む週4日勤務にして休日を平日に3日取得する働き方に移行しています。
働き方改革法で導入される「変形労働時間制」のまとめ
最後に、これまで上げた「変形労働時間制」についてまとめます。
●2019年4月から「働き方改革法」が順次施行し、同時に「変形労働時間制」が始動
●「変形労働時間制」は「働き方改革法」の根幹となる「時間外労働の上限制限」、「年次有給休暇の確実な取得義務」を実現するための制度
●繁忙期・閑散期が明確な事業所、季節により稼働日数が明確な事業所に有効な時間上限制度
●1ヶ月単位・1年間単位の時間配分を労使間で合意して、所管の労働基準監督署長に届出をしないと認められない制度
●事業所・従業員が勝手に「変形労働時間制」を導入することができず、1年間単位の労働時間計画を事前に届け出ることが必要
「変形労働時間制」は、企業によっては有効な労働時間上限制度となるメリットがある一方、残業代の算出やシフトの管理が煩雑になるというデメリットもあります。
導入する前にきちんと対策しておく必要があるでしょう。
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