日本国内の就業者は、昭和30年~昭和40年代の高度経済成長期に、終身雇用制度・年功序列制度・退職金支給制度が確立され、保護されていました。
21世紀に入り、日本の就業形態は日本オリジナル型から欧米型に移行しています。これまでは、大学・短期大学・専修学校・高等学校を卒業して、毎年4月に企業・団体・組織に入社すると、定年(60歳~65歳)まで安心して働ける形態でしたが、現在は変化しています。ただし、国家公務員・地方公務員などの雇用形態は変わっていません。
個人の雇用形態や働き方改革によって、自分自身の持っている専門的なスキルを武器にして独立・起業する人が増えています。その中で独立し、フリーランスとして活動・活躍している人は、約1,000万人を超えています。
しかし、日本にはフリーランスの保護法制は何もありません。
医療制度の国民健康保険への加入以外に、収入の補償・休暇の補償・事故や疾病罹患による休業補償・出産支援・育児支援・介護支援がなく、各種制度の整備が必要になっています。
今回は、日本のフリーランス保護制度を先進諸国の導入事例と比較しながら説明していきます。
目次
フリーランスの概要
フリーランスは「社会的に独立した個人事業主」であり、基本的には仕事内容によって個人で自由に契約し、請負契約した業務を実際に遂行します。請負契約によりますが、仕事内容によっては、契約期間内は契約先に常駐して業務を遂行する場合もあります。
フリーランスの職種は医師・歯科医師・弁護士・弁理士・作家(ライター)・俳優・プロスポーツ選手・大工・カメラマン・デザイナー・システムエンジニア・プログラマー・イラストレーター・エディター(編集者)などです。
フリーランスは自分自身の能力・スキルを商材にして対価を得ます。
しかし、「最低賃金」・「労働時間」・「休日管理」・「有給休暇」・「労働災害補償」はありません。ただし、「労働契約法」に基づく「労働契約書」に上記の記載があれば有効になりますが、ほとんどのケースは「独立した事業主」として、全てを自己責任で担う必要があります。
日本におけるフリーランス就業と保護制度の現状の課題
最近は個人の就業形態が多様化しており、従来の日本型の雇用形態である、「終身雇用制」・「年功序列制」・「退職金支給制度」が減少しています。
個人の雇用形態の変化や働き方改革による保護の在り方が検討されているのです。
これからフリーランス就業の保護制度制定における現状の課題を説明していきます。
フリーランス就業に関する課題
就業の状況は、業界・業種・業務内容によって異なり、業務内容は多岐に渡ります。契約期間があいまいな就業者が多い一方で、契約期間が明確化されているケースでは、比較的短期間の就業者が多い傾向にあります。契約期間を問わない就業者は、業務への満足度は高位のようです。
「雇用契約書」・「労働契約書」等を交互に交わす際に生じる課題
業界によって異なりますが、「雇用契約書」・「労働契約書」等を交わしていないケースが多く、口約束で就業しています。文書を交わしていないため、業務が完結した際に報酬に関するトラブルが生じるケースが多くあります。
契約条件・交渉に際に生じる課題
業務の継続を希望することを重視しているために、就業者側から雇用主へ、契約条件の文書化を要求できない状況にあります。契約条件の文書が存在しないため、就業の継続交渉の際、主従格差や報酬額が不適正でも業務を引き受けるケースが多くあります。
雇用主との契約件数に関する課題
就業している業界によって異なりますが、正規雇用ではないので業務専属義務が生じません。ですが、業務量・スケジュール面で結果的に専属的に就業するケースが多くあります。業務量・スケジュール面の調整を上手に制御している就業者は複数の雇用主との契約をしていますので、一概に専属就業者とは言えません。
受注方法に関する課題
個人の営業活動は、過去の取引先や知人の紹介によるケースが多いようです。
就業時間帯と就業場所に関する課題
一般的には就業時間と就業場所の指示がなく、就業者のペースで業務を遂行できます。ただし、専用機材の都合や他者の都合によるケースは就業時間・就業場所を拘束されることがあります。
トラブル・仕事上の悩みに関する課題
フリーランス就業者の約50%はトラブルがなく、円滑に業務の遂行ができています。業務内容や担当要件については、仕様の変更・作業期間の一方的な変更、報酬額の一方的な変更を求められるケースがあります。また、各種ハラスメント・事故・突然の解約などのトラブルもあります。
フリーランス保護制度の要望に関する課題
最大の問題点は「収入が不安定であること、低賃金であること」・「失業保険(雇用保険)制度が無い」・「労働災害保険(労災)制度が無い」ことです。フリーランス従業者には事故・疾病・その他の理由で失職したとき補償される制度がないのです。
保護制度による要望は「取引先との契約内容の書面化義務付け」・「トラブルが生じたとき相談できる機関や解決できる制度」・「取引先との契約内容決定・変更の手続きを明確化・制度化する」が多く見られました。
最近台頭しているクラウドソーシングに関する課題
インターネットを介して直接的に取引・契約となりますが、契約金額・契約期間に基準がなく、最低賃金を大きく下回るケースがあります。今後、最低基準の制定が求められる就業形態と言えます。
日本のフリーランス保護制度と比較した先進国の取り組み事例
日本のフリーランス保護制度と比較した先進国の取り組み事例を紹介します。
アメリカのケース
労働者の位置付けは相対的で、その時点の環境で変動します。アメリカの雇用契約は「終身雇用制」・「年功序列制」ではなく、期間契約が主流です。契約期間中は正規雇用従業員なので、日本の正社員と変わりはありません。アメリカのフリーランス就業者は多く、世界的大都市のニューヨーク市では「フリーランサー・賃金条例」が施行されており、フリーランス保護制度が始まっています。
イギリスのケース
労働者の位置付けは統一的で、正規雇用従業員を労働者(employee)、フリーランスを就労者(worker)として同等に扱います。フリーランス就業者は「最低賃金制度」・「年次有給休暇制度」を取得する制度で保護されています。現在、さらなる保護制度を拡充しています。
フランスのケース
労働者の位置付けは統一的で、伝統的な興業を生業にする芸術家やフリーランスで活動する芸術家をベースにした、特別な保護制度があります。2018年からは、フリーランス就業者全体を対象にした、事故リスクを補う保険制度が義務付けられるようになりました。
ドイツのケース
労働者の位置付けは統一的で、フリーランス就業者は「労働保護法(安全管理・健康の確保や改善)」などの保護対象になります。働き方の変化により「クラウドワーク法」の導入や「家内労働法」の規定をフリーランス就業者に準用するための検討を始めています。
日本のフリーランス保護制度に対する厚生労働省の施策案
日本国内ではフリーランス就業者に対する保護制度がありませんが、企業の雇用形態の変化と個人の働き方改革により、厚生労働省は施策案の検討を始めています。
前の2つの章で説明しましたが、フリーランス就業者の契約条件・労働環境・賃金現況の問題点や課題は整理されました。前記内容に基づき労働政策に関する方策や必要性を含めて検討が開始されています。
フリーランス保護に関しては、他の労働関連法や経済法(独占禁止法・下請け法)などを調整する必要があります。
今後、フリーランス就業者が保護される労働政策の詳細は以下の通りです。
①契約条件の明示化
②契約内容の決定・変更・終了ルールの明確化と契約履行の確保
③報酬金額の適正化
④スキルアップとキャリアアップの支援
⑤出産・育児・介護との両立
⑥雇用主(発注者)からのセクシャルハラスメント等の防止・抑止
⑦仕事が原因で負傷・疾病に罹患した場合、仕事が打ち切り・不法解約された場合の支援
⑧労使紛争が生じた際の相談機関・窓口の設置
⑨業務のマッチング支援と社会保障制度の拡充
日本のフリーランス保護法制に関するまとめ
フリーランス保護法制は、2018年6月29日に成立した「働き方改革法」と同様に検討する必要があったのではないでしょうか?
「働き方改革法」は正規雇用従業員・非正規雇用従業員(労働派遣従業員・期間契約従業員・時間給従業員(パートタイマー・アルバイト従業員))に対する法改正です。
フリーランス就業者には対応していません。
先進各国はフリーランス就業者を雇用従業員と同等に保護・補償しています。日本国内では雇用形態の変化と個人の働き方が変化している状況が進んでいますが、保護法制が追いついていません。
政府は、国内で活躍している約1,000万人のフリーランス就業者を無視して、外国人労働者受け入れに必死で、入国管理法を改正しました。法律は2019年4月から施行されます。また、2019年4月は「働き方改革法」も施行されます。他にも、国内の重要行事の今上天皇ご退位が2019年4月30日、皇太子殿下の天皇ご即位が2019年5月1日、統一地方選挙が2019年4月中旬に実施されます。
2019年の春は就労の嵐が到来しそうな気配を感じます。
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