元広告代理店勤務のライター直伝、副業や在宅ワークの「フェイク広告」の注意点

「短時間」「誰でも」「簡単に」「高収入」
こういったキーワードを前面に出した広告を見かけたことはありませんか?
一攫千金は誰もが一度は憧れる夢。
過酷な労働はせず、楽にお金を稼ぐことができればどんなに良いでしょうか。
特に子育てや介護などを理由に、外で働くことが難しい人にとって、このようなキーワードはとても魅力的に思えるでしょう。
しかし、その広告、本当に信じても大丈夫でしょうか?
こういった広告の一部は、事実を誇大した表現で読者を惑わす「フェイク広告」であると注意喚起が行われています。
今年1月にNHKで放送されたクローズアップ現代では、ネット広告の闇を追跡。[1]
注意したい「フェイク広告」の実例の中に、副業や在宅ワークについての誇大広告の例も取り上げられました。
私は、過去に広告代理店で多数の広告制作に携わった経験を持ちます。
その現場で常に心がけていたのは、商品の実態を正確に伝えること。
広告の品質を保つために、特定商取引法や景品表示法という法律についても学びました。
インターネットによって、今では誰もが広告を作成できる時代になりましたが、こういった広告にまつわる倫理感までは普及していないというのが現状です。
情報化社会において、インターネットは欠かすことのできない文明の利器です。
しかし、それを利用する一人ひとりが、情報の信ぴょう性を見極める目を持つことが必要になっています。
今回は、在宅ワーカーが注意したい副業の「フェイク広告」を見分けるポイントを解説します。
誇大広告の事例
<事例①>
まずは、2018年10月に東京都で起こった事例をご紹介。
都が特定の事業者に対し、誇大広告などを理由に業務停止命令を下したという事例です。
「毎月最低30万円のビットコインを受取り続けることが出来る」「あなたは完全に“ほったらかし”の状態で、毎月お金が受け取れる」などと広告し、容易に高額の収入が得られるとうたうアプリ等を販売している事業者に対し、特定商取引に関する法律に基づき、3か月の業務の一部停止を命じ、違反行為を是正するための措置を指示しました。
引用:「アプリを販売する通信販売事業者に業務停止命令等を実施」(東京都、2018年10月10日)
近年「儲かる」と話題のビットコインを題材にしたもので、短時間どころか「ほったらかし」状態でも毎月収入を得ることができると表示。
この広告は、副業に割く時間がない方や一攫千金を狙う方に、リスクなしに確実に高収入を得られるという誤った印象を与えました。
<事例②>
今年2月には、消費者庁から特定の事業者による誇大広告への注意勧告のプレスリリースが配信されました。
「在宅スマホ副業で7日で 20 万円稼げる人続出中!」などとして、スマートフォンを用いた在宅での副業で短期に高額の収入が得られるとうたう事業者に関する相談が各地の消費生活センター等に数多く寄せられています。
引用:「簡単な作業をするだけで「誰でも1日当たり数万円を稼ぐことができ る」などの勧誘により「副業」の「マニュアル」を消費者に購入させ た事業者に関する注意喚起 」(消費者庁、2019年2月13日)
スマホによる副業で、高額の収入を得ることができるという内容の広告です。
今や老若男女誰もがスマホを持つ時代。
中高年やパソコンが苦手な方にとって「スマホでできる」というのは、副業のハードルを大きく下げてくれる言葉です。
パソコンが苦手な方の心理をうまく利用したフェイク広告といえます。
このように「著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」を誇大広告といい、特定商取引法第12条で禁止されています。[2]
注意したい「フェイク広告」を見分けるには?
このような「フェイク広告」に惑わされないためには、まずその広告が本物であるかどうかを見分ける必要があります。
「フェイク広告」はネットユーザーの目をひくために、わざと誇大な表現を使用している場合が多く、その誇大表現は特定商取引法で禁止されています。
具体的には以下の二点に気を付けると良いでしょう。
1. 「うまい話」は嘘だと思え
冒頭でご紹介したNHKクローズアップ現代で「フェイク広告」を取材した記者は、トラブルから身を守る術として以下のような考え方を提示しました。
消費者庁は、“誰でも簡単に投資した以上の利益が確実に得られる”などという話については、まずうそだと疑ってほしいと話しています。
引用:「追跡!“フェイク”ネット広告の闇」(NHK クローズアップ現代+、2019年1月22日)
この考え方に私も賛成です。
なぜなら、うまい話は合理的な根拠を示すことができない場合がほとんどだからです。
特定商取引法の広告規制の一つに、「虚偽・誇大な広告を禁止」するという取り決めがあります。
特定商取引法の第6条などでは、広告を行う事業者は「表示された内容の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出」を求められることがあるとしています。[3]
うまい話という言葉には、「他人は知らないのに自分だけ得する」といった意味合いがあります。
つまり大多数の人が、まだ経験したことがなかったり知らなかったりする情報こそが「うまい話」。
ほんのわずかな人間しか知らない「うまい」副業について、特定商取引法が求める「合理的な根拠」、つまり統計に基づいた客観的なデータを示すことは本当に可能なことなのでしょうか。
答えはおそらくNOでしょう。
前述の通り、私は以前広告代理店に勤務していた経験があります。
ですが、広告を扱う立場の人間として、常に表現の信ぴょう性についてシビアに向き合っていたのを思い出します。
私が勤めていた会社では、定期的にこういった広告の表示に関する研修の機会を設け、広告に携わる社員が研修に参加していました。
誇大広告については特に厳しく慎重に扱われ、広告制作の度に先輩社員からも常に「その根拠はあるのか」と確認を受けていたのを思い出します。
2. 支払いが発生する場合は怪しいと思え
特定商取引法の広告規制にはもう一つ重要な点が記載されています。
それは「事業者が広告をする際には、重要事項を表示することを義務付け」るというもの。[4]
具体的な例として、ある文化施設の会員募集のチラシを作成した時のエピソードをご紹介します。
その文化施設の会員制度は、年会費を払うと施設の主催事業のチケットが割引されたり、近くの提携店でのお得なクーポンをもらったりできるという特典がありました。
私は当初、会員制度のお得な点を大々的に打ち出したチラシデザインを考えていたのですが、上司に相談したところ真逆のアドバイスが。
上司曰く、お客様が支払う年会費や制約事項などもしっかり目立つようにデザインした方が良いとのこと。
今考えると、上司の指示は「重要事項の表示」を意識したアドバイスだったのだと感じます。
うまい話のうまい部分だけを語って、消費者にとって損になるような情報を省くということは、広告では許されません。
この重要事項の中には、もちろん初期費用も含まれます。
初期費用の説明なしに副業を申し込んだ後、システム使用料や教材費などの名目で多額の料金を支払う必要があると発覚した場合、これは重要事項の表示を怠っていると考えるべきです。
つまり、特定商取引法に基づいた広告ではありません。
その料金を支払う前に怪しいと考えるべきでしょう。
「フェイク広告」なんて見たことがない?いいえ、「フェイク広告」はあなたのすぐ側に
自分は「フェイク広告」は見たことがないから大丈夫と、他人事のように思っていませんか?
しかし、こういった「フェイク広告」は実は身近なところに潜んでいます。
例えばSNS。
ツイッターやインスタグラムなどで、豪華なライフスタイルや札束などの画像をアップし、「副業で得た収入のおかげで毎日幸せ」というようなコメントが添えられている投稿を目にしたことはありませんか?
そういったアカウントから「いいね」やフォローなどのアプローチを受けると、ついつい相手の投稿を覗きに行きたくなりますよね。
これらの投稿も「フェイク広告」の1つです。
私はSNSが大好きで、1日に何度もSNSを覗いてしまうタイプなのですが、こういった「フェイク広告」アカウントからのアプローチの頻度に驚かされます。
もし自分に予備知識がなく、さらに窮地に陥っている時にさりげなくアプローチを受けたら、心が動いてしまうかもしれないとゾッとします。
SNSを通して見えない相手と気軽に連絡を取り合うことが簡単にできる現代からこそ、自分で自分を守っていく必要があるのだと強く感じます。
本来副業は地道にコツコツ行うもの。うまい話には疑ってかかった方が良い
副業が推進され、さまざまな種類の副業が登場する中、今後もあらゆる「フェイク広告」が出回る可能性があります。
しかし、フェイク広告を見分けるポイントは、実はそんなに難しくありません。
今回ご紹介したように、「うまい話」と「支払いが発生する副業」が「フェイク広告」を見抜くポイントです。
正確な情報を見極めながら、自分に合った副業を探してみましょう。
<参考・参照サイト>
[1] 「追跡!“フェイク”ネット広告の闇」(NHK クローズアップ現代+、2019年1月22日)
[2] 「特定商取引に関する法律 第十二条」(電子政府の総合窓口 e-Gov[イーガブ])
[3]「平成28年特定商取引法の改正について 特定商取引に関する法律第6条の2等の運用指針(PDF)」(消費者庁、2017年11月1日)
[4] 「特定商取引法とは(特定商取引法の概要)」(特定商取引法ガイド)
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