働き方改革法案のメリット・デメリット 2019年4月から改正される働き方改革関連法について

現在の国内雇用状況は「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児・介護の両立、働く方のニーズの多様化」の問題が山積しています。さらにIT技術の飛躍的な進歩とAI技術による労働環境が改新されています。企業は生産性向上と就業機会拡大、意欲・能力を存分に活用する環境整備が重要な課題です。
課題が山積するなかで「働き方改革法案」が成立しました。その目的は多岐に渡り、列挙すると以下のようになります。
「長時間労働の是正」
「雇用形態が影響しない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金制度の導入)」
「柔軟な働き方の環境整備(テレワーク・副業・兼業の推)」
「ダイバーシティ(人材の多様化)の推進」
「賃上げ・生産性向上」
「再就職支援・人材育成」
「ハラスメント防止対策」
「働き方改革取り組み事例・自己診断(働き方・休み方)」
「中小企業・小規模事業者への支援(国内雇用の70%を占める中小企業・小規模事業者への施行実施支援」です。
上記の全てが完全に実施され成果が上がれば理想的な雇用環境に改革されます。
働き方改革関連法とは?
「働き方改革関連法案」は、働き方改革関連法1本の法律ではありません。「働き方改革」に関係する8つの法律をまとめて改正することです。正式には「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」と称します。2018年6月29日参議院本会議で可決・成立した法律です。
働き方改革関連法案は?
8つの労働とは「雇用対策法」「労働基準法」「労働時間等設定改善法」「労働安全衛生法」「じん肺法」「パートタイム労働法」「労働契約法」「労働者派遣法」です。
・雇用対策法は、雇用に関連する行政府が定める総合的施策を通じて労働力の需給と均衡を図ります。国民経済発展と完全雇用達成を目的とする法律です。1966年に施行しました。
・労働基準法は、労働者の生存権を保障し、労働契約・賃金・労働時間・休日・年次有給休暇・災害補償・就業規則の労働条件の基準を定める法律です。1947年に施行しました。
・労働時間等設定改善法は、年間総実労働時間1800時間を目標に、労働時間の短縮の推進を図ることを目的とした法律です。2006年に施行しました。
・労働安全衛生法は、労働安全衛生法は、労働者の安全と衛生に関する基準を定めた法律です。1972年に施行しました。
・じん肺法は、塵肺に関して適正な予防と健康管理、必要な措置を講じて、労働者の健康保持と福祉増進を目的として制定された法律です。1960年に施行しました。
・パートタイム労働法は、パートタイム労働者と通常の労働者間の均等・均衡待遇の実現を図ることを目的として制定された法律です。1993年に施行しました。
・労働契約法は、労働条件を定める際の基本的ルール・手続きを明確にして、多発する労働契約・解雇などの労使紛争を防止する目的の法律です。2008年に施行しました。
・労働者派遣法は、企業が雇用した労働者を他の企業に派遣し、その派遣された企業の指揮命令による労働に従事させることを適正化した法律です。1985年に施行しました。
法律改革のポイント
第1のポイント
働き方改革の総合的で継続的な推進することです。雇用対策法の改正になります。
第2のポイント
長時間労働の是正と柔軟な働き方を実現、つまり労働基準法の改正になります。
内容は、
①時間外労働の上限規制を導入。
②長時間労働抑制・年次有給休暇の取得促進。
③フレックスタイム制度の見直し。
④企画型裁量労働制の対象業務範囲を拡大。
⑤高度プロフェッショナル制度を新設。
⑥勤務と勤務間のインターバル制度の普及促進。労働時間等設定改善法の改正になります。
⑦産業医・産業保険機能の強化。労働安全衛生法とじん肺法が改正されます。
第3のポイント
雇用形態を問わない公正な待遇の確保することです。
内容は、
①不合理な待遇差別を解消するための規定を整備。パートタイム労働法と労働契約法が改正されます。
②労働者派遣法の改正。派遣先労働者は、均等・均衡待遇方式と労使協定方式の選択が可能になります。
③労働者の待遇に関する説明義務を強化。
➃行政の履行確保措置と裁判外紛争解決手続の整備。
国会の審議で官僚が作成したデータ不備が問題になり、「裁量労働制」「高度プロフェッショナル制度」の導入は見送りになりました。しかし見送りは一時しのぎに過ぎず、「骨抜きの改正」「内容が脆弱」「解釈が不透明」な部分を残したまま改正案は成立されました。
関連法案施行は、2019年4月から
「働き方改革関連法」が成立したことにより、2019年4月から改正した法律が段階的に施行されます。企業は、各法律改正に向けた対応が必要になります。
労働時間制度の改正が実施される
時間外労働の上限制度が導入され月間の上限が45時間、年間の上限が360時間に制度化されます。
ですが、企業にとっての逃げ道は用意されています。年間720時間を上限にする、休日出勤を含めて月平均80時間以内、休日労働を含めて単月で100時間未満になること、原則の月間の上限45時間を超える回数は6回までとなります。
上記を脱法したときは雇用主に6月懲役か高額な罰則が課されます。施行日は、大企業2019年4月1日、中小企業は翌2020年の4月1日、自動者運転業務・建設業・医師は2024年4月1日です。
勤務と勤務間のインターバル制度の普及促進が導入される
勤務と勤務間のインターバル制度は、「過剰労働」による健康被害予防目的と勤務の就業終了時刻と翌就業開始時刻を一定時間空けて休息を取得する制度です。現時点では業種別職種別に具体的な一定休息時間の規定がありません。バス運行会社は8時間を独自に設定しています。2019年4月から制度の導入が努力義務化します。(強制法ではありません)
産業医・産業保健機能が強化される
企業が従業員の健康を適切化するため、産業医の委託・環境整備が求められます。具体的には「事業所は従業員の健康確保対策を強化する」「産業医が活動する環境を整備する」ことです。2019年4月から施行されます。
高度プロフェッショナル制度が制定される
高度な専門知識を必要とする業務に従事して、職務範囲が明確で年収1,075万円以上を取得している専門職を労働時間制限の規定から除外する仕組みです。この仕組みを「高度プロフェッショナル制度=高プロ)と言います。本人の同意を条件に労働時間・休日・深夜の割増賃金の規定を適用除外される制度です。対象職種は「金融商品の開発技術者」「金融商品ディーリング業務」「企業・市場を高度な分析をするアナリスト」「事業・業務の企画運営のコンサルタント」です。2019年4月から施行されます。
同一労働同一賃金制度が導入される
正規雇用社員と非正規雇用社員の業務内容が同一である場合、雇用形態による賃金格差を解消させるための制度です。雇用形態に関係なく、同一の労働に従事した社員の対価は同一にすることになります。
非正規雇用社員の低賃金問題解決が急務とされているので、都道府県別の最低賃金を厳守する次元のことではありません。企業・団体・官公庁は雇用形態・給与体系を見直しすることが急務になりました。
この制度の施行は2019年4月からではなく、制度改正準備期間が設けてあります。大企業は2020年4月施行、中小企業は2021年4月施行です。雇用形態による賃金格差がある企業は合理的な説明を求められます。社会の晒し物企業に陥る可能性があります。
従業員に対する待遇の説明義務が強化される
企業は「短時間従業員」「有期雇用従業員」「派遣労働者」について、正規雇用従業員との待遇差内容・理由を説明することが義務化されます。今後、前述した「同一労働同一賃金制度の原則」を前提に義務化されます。大企業は2020年4月施行、中小企業は2021年4月施行です。
行政による履行措置と裁判以外で紛争事件が生じた手続きが整備される
「同一労働同一賃金制度導入」「高度プロフェッショナル制度導入」「勤務時間インターバル制度導入」により、義務違反企業の発生・待遇格差が存続する企業が発生した際は、違反理由・格差理由の説明義務を行政が受けることになります。行政側も体制を整備する必要があります。労働時間上限制度は2019年4月ですので、半年で受け入れ環境整備と担当者の育成することが求められます。
全ての法案が2019年4月に施行されるわけではない
「働き方改革関連法」が成立したことにより、2019年4月から改正した法律が段階的に施行されます。全てが2019年4月から施行されるわけではなく、一部の法律は施行までタイムラグがあります。企業・団体・公官庁は人事制度・給与規定・就業規則の整備が、早急に求められます。
2019年4月に施行されない制度・法律を紹介します。
時間外労働の上限制度導入
大企業はタイムラグがありません。2019年4月施行です。中小企業は1年間のタイムラグがあり、2020年4月施行です。また、自動者運転業務・建設業・医師は5年間のタイムラグがあり、2024年4月施行です。
同一労働同一賃金制度導入
全産業の企業に1年以上のタイムラグがあります。そのタイムラグ間に十分な給与規定整備を行います。大企業は2020年4月施行です。中小企業は2021年4月施行です。
働き方法案のメリット・デメリット
働き方法案のメリット
①正規雇用従業員・非正規雇用従業員の待遇の格差を解消
従来は、雇用形態の違いで同一の労働をしても待遇・報酬に格差がありました。日本では正規雇用と非正規雇用の給与比率は10:4です。欧米企業は10:8まで進歩しています。日本の待遇格差を欧米企業水準まで是正する法改正です。実現できるか否かは企業の努力次第で成果が現れます。
②長時間勤務・残業を減らす
月間の上限が45時間、年間の上限が360時間に制度化されます。生活残業を余儀なくされた方も副業が認められますので、回避策を講じることが可能になります。従来の少数精鋭型業務にもメスが入ります。実現化は企業次第です。
働き方法案のデメリット
ずばり、高度プロフェッショナル制度の導入。
高度プロフェッショナル制度は通称「高プロ」と呼ばれていますが、高い専門知識が必要とされる一方で労働時間と成果の関連性が高くありません。ですが報酬が年収1,075万円以上と高報酬です。日本の全産業の平均年収は440万円で、その差はおよそ2.5倍。現時点での対象職種は「金融商品の開発技術者」「金融商品ディーリング業務」「企業・市場を高度な分析をするアナリスト」「事業・業務の企画運営のコンサルタント」となっています。
では、高度プロフェッショナル制度を導入すると、何が問題になるのでしょうか。
ここで、高度プロフェッショナル制度が上記職種以外に適用されたケースを想像してみましょう。例えば「一般職・総合職・営業職に職種を広げられる可能性」「対象年収を引き下げる可能性」があります。日本の全産業に適用範囲が広がる可能性は否定できず、一部では「残業代無し制度」「過労死推進制度」などと悪評も囁かれています。
企業が人事制度・就業規則で高プロ対象範囲を強引に定めれば高プロ対象者は増加します。さらに企業は残業制度・休日出勤対応・休暇制度から除外され、決まった年収額の支給だけになります。企業が主導権を持つ制度です。実際に企業が導入を採用するか?適用範囲を引き下げるか?など、社会的な問題になりそうです。また行政の指導も頻繁に行われブラック企業的な要素は情報が拡散されていくでしょう。
まとめ
働き方改革関連法案は、大企業に有利な法改正と言われています。近代国家になって初めて到来する人材不足のなかで、今回の法改正は適切であったか否かは将来の史学者が評するでしょう。はっきりと言えることは、勤務時間の上限制度・高プロ制度・同一労働同一賃金制度導入によって格差解消・健康維持は達成可能です。しかし、日本文化の宝「伝統工芸」・町工場の宝「伝統技法」の存続に政府がイエローカードを出した法改正とも言えます。
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