昭和のバブルの時代から始まっていた歴史の長いフレックス制度ですが、従来の制度では清算期間は1ヶ月以内でした。
働き方改革の改正フレックス制度は、今までよりももう少し対象範囲を拡充するために清算期間1ヶ月を超え3ヶ月まで延長されています。
そこで、従来のフレックス制度との違いから、働き方改革の改正フレックス制度について、残業手当を中心に解説しましょう。
働き方改革前の従来のフレックス制度とは?
出勤していなければならないコアタイム(コアタイムなしも可能)について従業員に勤務時間を委ねられるフレキシブルタイムを定める制度です。
社員に自らの労働時間管理を委ねることで、社員各自のライフスタイルに合わせた働き方ができます。清算期間とその期間の総労働時間を定めて、後は社員各自に始業・就業時間を委ねた働き方です。
ただし、会議や打ち合わせ等のために、必須出社時間であるコアタイムを定めなければなりません。1日の総労働時間のほとんどがコアタイムだったり、出社時間や就業時間の片方だけが自由だったりした場合は、フレックスタイムに当てはまりません。
もちろん、清算期間の総労働時間が労働基準法の労働時間を超えてはいけません。
しかし、法定労働時間が適用されるのは清算期間全体で見たときなので、1日もしくは1週において、労働基準法が定める法定労働時間を超えて従業員を働かせても違法ではありません。
一般的に、社員の裁量性の高い仕事に就く人のために考案された働き方ですが、一定の手続きをしっかり行なえば、高度プロフェッショナル制度のように職種の制限はありません。
家事や育児、趣味や習い事等の自由な時間をもちやすいだけでなく、フレックスタイムを上手に活用すれば、従業員の残業時間が減少した例も少なくありません。
<従来のフレキシブルタイムの働き方例>
・朝が苦手な社員が、フレキシブルタイムで出勤時間・退勤時間を遅く設定したことで、効率よく仕事ができた
・朝、子供を保育園に預けてゆったり出社
・子供のお迎えのための早退をしなくていいように、早朝出勤で始業を早める
・習い事や趣味のために早く帰りたいときは、早朝出勤して始業を早める
会社に拘束されている感覚よりも、ライフスタイルに合わせて自発的に仕事をしている感覚があって、プライベートの充実が図れます。
さらに、決まった時間に帰宅することができるため、仕事を効率的に行ないモチベーションも上がりやすい傾向があります。
改革前のフレックスタイム制と働き方改革の改正フレックスタイム制の残業代の違い
従前のフレックス制度の残業代について
一般的な「1日の所定労働時間」とは、始業時間と就業時間が明確に定められています。
従来のフレックスタイム制度は、清算期間(1ヶ月以内)の総労働時間を定め、その労働時間内で、出勤時間と退勤時間を労働者の意思に委ねる働き方です。会議など、皆が揃っていないと業務に支障をきたすこともありますので、コアタイム(出勤しなければならない時間)を設定することもできます。
もちろん、コアタイム無しのフレキシブルタイムだけの設定でも構いません。清算期間内の所定総労働時間を超えた労働時間を残業時間と定めます。
ただし、清算期間の法定労働時間の総枠を超えた労働時間に残業手当を付与するのが、労働基準法上のフレックスタイムの規定です。
ちなみに、「労働基準法は、労働者の最低限の権利」を定めた法律なので、法定労働時間未満の所定労働時間越えの残業時間全てに残業手当てを付与するかどうかは、経営者の自由とされています。
労働基準法の規定よりも労働者に有利な労働条件を定めるのは、経営者の自由なのです。
また、もしも清算期間で所定労働時間に満たない場合、早退・欠勤扱いにするのか、もしくは通常の所定労働時間働いたものとみなし、所定の月給を支払い、不足分の労働時間は翌月に繰り越す(労働時間の「借り」)のかは、経営者に委ねられています。
なぜならこれは、労働者に有利な提案だからです。
一方、清算期間の総枠の所定・あるいは法定労働時間を超えて働いた残業手当に該当する労働時間の残業手当を翌月に繰り越す(労働時間の「貸し」)ことは許されません。
なぜなら、賃金について、賃金(残業手当を含む)を労働者に支払わずに待たせるのは、労働基準法違反となるためです。
働き方改革の改正フレックス制度の残業代について
①フレックスタイムの残業時間カウントを目的とした、清算期間の総枠の決め方
本来フレックスタイム制の方が働き方にマッチしているのに、清算期間が短いために裁量労働制を導入していた企業が多く存在していました。そのような職種にもフレックス制度が導入できるように、清算期間が3ヶ月まで延長されました。
政府は、いわゆるフレックスタイムの拡充を狙ってこの制度を作ったのです。
たとえば、デパートの繁忙期、早番や遅番があります。
引き継ぎ時間をコアタイムとし、早番遅番の出勤・退勤時間をフレックスタイムに該当することもできます。こうすれば、早番なのに急がしさにかまけて帰れなくなったなんて事が起きても、翌日に時間調整ができます。
さて、ここで問題が起きます。
月を跨いで繁忙期が続いた場合、清算期間が1ヶ月を超えますので、違法なはずの労働時間の「貸し」が合法的に行なわれるのです。
もちろん労使協定で労働者の過半数を代表する者が同意しているものですから違法ではないのですが、清算期間が長くなるので、労働時間の把握を経営者が綿密に管理・監督しなくてはなりません。
例えば、通常労働時間は、週休2日制の清算期間が3ヶ月の場合、31日の月には177時間、30日の場合171時間、3ヶ月で525時間となります。
2019年に労働基準法に盛り込まれる予定の改定フレックスタイム制の1ヶ月を超える清算期間の計算式は以下の通りです。
フレックス制度の法定労働時間の総枠=40/7×(清算期間の歴日数)
②1ヶ月を超えるフレックス制度には「繰り越し」に制限があるので要注意
労働時間の「借り」の繰り越しが行なわれると、不足した分の労働時間が繰り越されます。
しかし、無制限に許可していたら、繰り越されて増加した労働時間が過労死なみの労働時間となる可能性が否定できません。
そこで、残業時間の上限が労働基準法で以下のように定められています。
1週間につき15時間
2週間につき27時間
4週間につき43時間
1ヶ月につき45時間
2ヶ月につき81時間
3ヶ月につき120時間
1年につき360時間
これは現行の規定ですが、2019年の法改正によると、1ヶ月60時間を超える労働時間の割り増し賃金は、2割5分の2倍にあたる5割増し賃金といったさまざまな改定事項が明記されることになります。
そのため、働き方改革で改定フレックスタイムを導入する場合は、労働時間の管理システムの構築が急がれます。このような注意を怠れば、清算期間が終了する最後の月の労働時間の清算が複雑なものになりかねません。
労働時間の繰り越しの場合、この「該当期間の法定所定労働時間+残業時間の上限」を超えての労働は禁止されています。
そのため、不足分の労働時間の月内の繰り越しも、月を跨ぐ繰り越しも、労働基準法上可能かどうかを吟味して、フレックスタイム制度の勤務時間の調整を行なわなければなりません。
③36協定は無制限残業可能の協定ではない!
この残業時間の規制を超えることが、36協定を定めることによって合法になりますが、それでも残業時間の上限が緩和されるだけで、無くなるわけではありません。その点誤解のないように、労働基準法36条をしっかりと理解しましょう。
2019年からの改正労働基準法では労働時間の割増賃金についての改定も行なわれます。
ちなみに、残業時間の上限については、従来省令の通達に記されているに過ぎませんでしたので、努力義務規定の効力しかありませんでした。
しかし、2019年の法改正からは労働基準法に明記されるので、罰則規定も盛り込まれますので、労働時間の規定が厳しくなることを認識しておきましょう。
④異動や退職のために清算期間が短くなった労働者に対する処置もある
もしも清算期間内に異動や退職のため清算期間を全うできない労働者の場合は、法定労働時間に計算し直して残業代の支払いが発生することも定められます。
働き方改革のフレックス制度導入のための必要な手続きの比較
フレックス制度導入のために必要な労使協定との締結項目
<従来のフレックス制度の労使協定>
①対象となる労働者の範囲
②清算期間
③清算期間における起算日
④清算期間における総労働時間(残業代精算の基礎となる)
⑤標準となる1日の労働時間
⑥コアタイム(コアタイムを設ける場合)
⑦フレキシブルタイム
<働き方改革の改正フレックス制度の労使協定追加予定項目>
⑧総労働時間を超えた場合(残業代)、総労働時間に満たない場合(早退・欠勤代)の給与支払い方法について(清算するか、繰り越すか、繰り越した場合の総労働時間が労働基準法の法定総労働時間を超えることができない)
⑨清算期間の所定労働時間の総枠(残業代の基礎を決めるとともに、繰り越しの目安として1ヶ月・2ヶ月の上限も定める)
⑩1ヶ月の総労働時間の上限・2ヶ月の総労働時間の上限・清算期間の総枠の労働時間の上限
忘れてはいけない就業規則の改定
労使協定が締結されれば、就業規則にフレックス制度の詳細を定めなければなりません。
フレックス制度は、就業時間・残業に関する規定なので、就業規則の必須事項となり、フレックス制度の導入の際には、就業規則の変更届けを労働基準監督署に提出しなければならないのです。
これは、従前のフレックス制度も働き方改革の改正フレックス制度も同じです。
従前のフレックス制度を働き方改革のフレックス制度に改定する場合も同様です。
しかし、前就業規則よりも労働者に不利な条項は、特別な事情がない限り労基署が原則認めません。
労働基準法上、労働者の過半数を代表する者の意見書が経営者に対して提出されていれば、意見書の内容がたとえ「反対」であったとしても、経営者は就業規則を自由に定めることができます。
しかし、労使協定が必要な事項については例外です。
そのため、労使協定が必要な事項については、労使協定の次に就業規則作成を行うのが二度手間にならない合理的な仕事の手順です。
1ヶ月未満のフレックス制度については、労使協定が必要ですが労使協定の届け出は必要ありません。
ただし、就業規則の変更届けのみ労基署に届け出義務があります。
働き方改革の改正フレックス制度で、1ヶ月を超える清算期間のフレックス制度を定めた場合のみ、労使協定も就業規則の変更届けとともに労基署に届け出が必要となります。
フレックス制度(働き方改革の改定フレックス制度を含む)のメリットとデメリット
フレックス制度のメリット(残業代を捨てての所定労働時間のやりくり)
・通勤ラッシュを避けることができる
・子育て中の保護者は、子供を見送ってから一通り家事を終えた後に家を出ることができる
・子供の幼稚園や保育園のお迎え等ができるようになる
・病院や銀行等、昼間しかできない用事を済ますことができる
・朝が苦手・夜が苦手といったそれぞれの生活スタイルに合わせることができる
・朝早く出勤して早く帰ることにより、習い事や趣味の時間に充てることができ、比較的自分のライフスタイルに仕事を会わせることができる
・新しい新設フレックスタイム制度の場合、夏休みの労働時間だけ少なめにして、労働時間の借りが可能となる。ただし、借りの労働時間にも限度があるため注意が必要
・1ヶ月を超えるフレックスタイム制には、夏休みの子供のスケジュールに合わせることも可能
フレックス制度(働き方改革の改定フレックス制度を含む)のデメリット
・チームワークで仕事をやっていたり、他部門や取引先との連携が重要な部署では取り入れにくいので、導入できる部署が限られてくる
・コアタイムが短いために、会議等のスケジュールが合わずに仕事のスケジュールがあわせにくくなる
・取引先との連絡が困難になってサービスの低下に繋がる
・チームワークの連携がとりにくい
・新しい改定フレックス制度の場合、清算期間が1ヶ月を超えるとき1ヶ月の総労働時間が所定の労働時間の総枠に満たなければ翌月繰り越しが認められるが、労働時間の総枠の上限を超えてしまう場合は繰り越しができず、清算時にマイナスとなる可能性がある
・新しいフレックス制度の場合、清算期間の最後の月に残業時間が清算されるので、残業時間が減ってしまう可能性がある
・労働時間の制限によって労働時間の繰り越し不能となり、欠勤・早退扱いとなることもある
まとめ
2019年4月施行を目指す働き方改革案の新しいフレックス制度は、さまざまなライフスタイルに柔軟に適用した、まさに新時代の働き方改革にピッタリの制度です。
しかし、働き方が労働者の意思に委ねられる点が大きくなったからといって、経営陣が労働者の勤務時間の管理や労働衛生上の問題に無頓着になっていいというものではありません。
残業代の繰り越しという「貸し」が存在することになるのです。
また、本来フレックス制度でなかったら、働き方改革の新案の「60時間越えの労働時間に対して残業手当が5割増しになる」はずだった労働時間が、残業無しとして労働時間の貸しが行なわれる悪法もどきにもなりかねないのです。
そんな損を労働者にさせないためにも、労働時間の管理を徹底させましょう。
法定労働時間を超える労働時間の上限についても、現行は通達に過ぎないさまざまな努力規定義務です。
しかし、努力規定義務から法定義務に格上げし、労働者の不利益にならないよう割り増し賃金格上げも検討しつつ、経営者の監督・監視の義務化を厳重にする予定なのです。
夢の働き方改革は、労働者自由を与える代わりに、労働時間を把握するシステムをはじめ、労働者も経営陣も厳しい自己管理が必要となってきます。
残業50時間を超えた労働者には医師との面談の努力義務、残業100時間越えの場合は医師との面談の義務化が安全衛生法にも明記される予定です。
そして、悪法とならないために、法律の抜け道が無いよう、労働時間および労働者の健康・安全管理に、経営者が目を光らせなければならない時代となっていくのです。
自由と管理・監督システム、この両輪がそろって初めて、夢の働き方改革が実現していくといえるのでしょう。
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